研究課題
大学・大学院教育の質的保証のため、今日、大学教員の能力開発が喫緊の課題とされている。本調査研究の目的は、大学教授職の役割取得と能力開発に対して基礎的エビデンスを得ることにある。26年度は、研究実施計画に照らして、以下3点の成果を得た。(1)大学院生の初期キャリアとして、大学院拡充政策の後遺症が見られる。「学校基本調査」(1980-2013)から大学院重点化政策以後に、人文・社会科学系の修士2年と博士課程後期3年次の院生が著しく滞留している。卒業後の直近の無業率は、人文・社会科学系の修士課程で4割、博士課程後期で7割に達している。修士課程進学率の上昇とは対照的な博士課程進学率の一貫した減少傾向は、時系列回帰分析からいわゆる「博士離れ」ではなく、修士課程の急激な増加によって説明される。(2)博士人材のアカデミアへのキャリアが紆余曲折していること。大学教授職国際比較調査のデータから、17ヶ国18,530人の学位取得年齢を中央値で見ると、人文・社会科学系は34歳(平均36歳)、自然科学系は32歳(平均34歳)。日本の人文・社会科学系は中央値で39歳(平均40歳)、自然科学系は32歳(平均34歳)。初職年齢の中央値は、33歳(平均年齢35歳)。日本の平均値は33歳(中央値32歳)。このことから博士課程後期修了後に大学で職を得るために紆余曲折することは、日本に限らず世界的現象であると言える。(2)女性院生と社会人院生の増加。分野別に過去30年の女性院生を見れば、すべての分野で女性が増加していること、とくに人文・社会科学系で女性が5割に達していること、社会人院生は教育学、人文・社会科学で増加しているが、とくに保健系で増加が著しい。このことは教員に多様な教授能力を要請していることを示唆する。
3: やや遅れている
教員を対象としたアンケート調査の実施が遅れている。しかし、官庁統計とマクロデータにより、日本の大学院拡充政策以後の動向を多元的に明らかにし、博士人材の学位取得とアカデミアに至る平均年数を国際比較の視点から明らかにすることができた。
若手、中堅、シニア層の教員に対して、大学教員としての能力獲得についてインテンシブな取材を重ねる。それにより、大学教員の能力形成に関わるアンケート調査を企画し、実施する。
26年度に予定していたアンケート調査について年内に実施できなかったため郵送費(切手代)に残額が生じた。
27年度に大学教員3,000人を対象にしたアンケート調査を実施し、残額を消化する。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件) 図書 (1件)
大学論集
巻: 47 ページ: 57-72
戦略的研究プロジェクトシリーズⅨ
巻: 9 ページ: 65-104