研究実績の概要 |
最終年度は、「全国大学教員調査」の二次分析と国立大学教員に対するアンケート調査(1,400人)により、国立大学を対象として教員の授業実践能力に及ぼすクラスサイズと研究能力形成に及ぼす研究費(個人研究費と競争的外部資金)に焦点化した。以下、5点の成果が得られた。 (1)教員の教育能力を専門授業の達成度で自己評価した場合、クラスサイズの影響は無視できず、答申の勧めるアクティブラーニングが有効なのは小規模人文社会系のクラスである。アクティブラーニングの効果は、分野やクラスサイズを超えて一般化できない。政策と実践の「脱連結」が生じている。(2)法人化後に個人研究費が5割以上削減された者は全体の3割に及ぶ。個人研究費削減の影響は、専門分野では自然科学系、「総合・複合大学」に勤務する教員の過半数が教育・研究活動全般に「かなり影響がある」と回答している。(3)競争的外部資金を従属変数とする回帰分析の結果、研究時間数、共同研究志向、個人研究費、そして研究能力の自己評価が有意な影響を与えている。 (4)分野別に過去3年の査読付き論文数を従属変数とするポアソン回帰によると、任期付き教員、共同研究志向、競争的外部資金、研究能力、そして研究能力評価がプラスの影響を与えるが、人文社会科学系では個人研究費は有意な係数を持たない。 (5)研究活動の継続困難性は、他の変数を一定とすると競争的資金ではなく、個人研究費の影響が大きいことが明らかになった。 総じて、授業実践能力は、教員の裁量に委ねられているが、国立大学は法人化後の運営費交付金年率1%の削減が個人研究費の大幅減となり、これが競争的外部資金、論文生産性、研究継続性に負の影響を及ぼし、さらに教員の多忙性を引き起こす「負のスパイラル」が生じていると言える。研究能力の開発には、不要な会議の整理など時間資源の確保と個人研究費の底上げが政策的含意である。
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