近年、アメリカにおける教員評価のあり方は大きく揺れ動いている。従来は年に1、2回程度実施される授業観察によって教員が評価されていたが、2002年に制定された「ひとりもおちこぼれを出さない法(No Child Left Behind Act: NCLB法)」が、「高い資格を有する教員」の雇用を学区に義務づけ、2009年から開始された「頂点への競争(Race to the Top: RTTT)」プログラムが生徒の学業成績を教員評価に結びつけることを求めたことから、教員評価をめぐる問題は全米でポリティカル・イシューとなった。 全米最大の学区であるニューヨーク市では、教員評価の結果を公表することの是非や新しい教員評価制度の導入をめぐって、教員組合と行政当局との対立が顕在化した。そこで、本研究は、ニューヨーク市の教員組合である教員統一連盟(United Federation of Teachers: UFT)の視点から、ニューヨーク市の教員評価をめぐる近年の動向を整理し、教員組合が教員評価制度の構築にどのようにかかわっているのかを明らかにし、新しい教員評価制度の実態を分析するとともに、その課題を検討した。 アメリカの教育の制度や政策を検討する際には常に留意すべきことであるが、ニューヨーク市の教育制度や政策を分析するには、ニューヨーク州の教育制度や政策を押さえておかなければならない。教員組合についても、ニューヨーク市を基盤とするUFTは、ニューヨーク州教員連盟(New York State United Teachers: NYSUT)の傘下にある。UFTとNYSUTは歩調を合わせて行動することも少なくないが、ニューヨーク市独自の問題に対しては、UFTがもっぱら対応している。こうした市と州の二重構造に目を向けながら、研究を進めていった。
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