研究課題/領域番号 |
26590220
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
杉村 美紀 上智大学, 総合人間科学部, 教授 (60365674)
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研究分担者 |
大倉 健太郎 大阪女子短期大学, 幼児教育科, 教授 (10266257)
丸山 英樹 上智大学, グローバル教育センター, 准教授 (10353377)
湯藤 定宗 玉川大学, 教育学部, 准教授 (20325137)
吉高神 明 福島大学, 経済経営学類, 教授 (80258714)
厳 成男 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (80614099)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 教育政策 / 比較教育学 / 持続可能な開発のための教育(ESD) / 復旧・復興と教育 / 国際情報交換(中国、米国) / 社会関係資本 / レジリエンスと教育 / 学際的研究 |
研究実績の概要 |
本研究は、教育が持つ「社会関係資本」、「レジリエンス」、「持続可能性」というソフト・パワーとしての機能に着目し、災害後における地域の復旧・復興に対して与える影響を、学校教育の取り組みと社会変容の分析という観点から国内外の事例の比較研究を通じて明らかにし、地域再生のための政策提言を行うことを目的とする。2014年度(初年度)は、先行研究の分析ならびに福島とアメリカ・ニューオリンズの現地調査を行い、コミュニティの再生が、元通りに「復旧」する場合と、新たな組織やシステムを構築する「復興」する場合の2つの観点から捉えられることを明らかにした。 そこで2015年度は、両事例調査の継続実施、ならびに研究成果の発表を積極的に行った。事例調査では、ハリケーン被害から10年余りのニューオリンズ、東日本大震災から4年余りの福島のいずれの事例も「復興」途上であり、そこでは行政や経済支援のみならず、文化の再興とそれを支える人々の認識や人的ネットワークの担保が必要不可欠であることが確認された。 他方、研究成果の発信としては、得られた知見を基に、科研メンバー以外の研究者との討論を通じて分析を掘り下げた。日本比較教育学会第51回大会の課題研究Ⅱ「災害後のコミュニティ復興と教育の役割」(2015年6月)では、前年度に同学会で行った共同研究発表を基に、本科研メンバーがパネルディスカッションのパネラー及びコメンテーターとして参加し、ニューオリンズと福島の調査の成果を、ニュージーランドのクライストチャーチの地震災害およびスリランカの津波被害後の状況と比較検討し、社会教育やノンフォーマル教育の視点を含めた教育の役割についての議論に貢献した。同パネルディスカッションに基づく研究論文は、日本比較教育学会編『比較教育学研究』第52号(2016年2月刊)に特集として収められている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は、本研究の2年目として、前年度の先行研究調査及び事例調査を実施し、日本比較教育学会第51回大会の課題研究Ⅱ「災害後のコミュニティ復興と教育の役割」において、比較研究の視点から研究成果の発表を行った。一連の研究分析のなかでは、本科研のメンバーの一部が2012年から参加してきた日本学術振興会による「震災に学ぶ社会科学」プロジェクトの成果も参照しながら、復旧・復興における再生モデルを検討した。なかでも前年度に続きメンバー間でより強く共有されるようになったのが、福島をめぐる問題である。原子力発電所事故の影響は、前年度も指摘したように復興を支える「レジリエンス」や「持続可能性」という点で、他の事例と根源的に異なる性質を持っているが、本年度あらためて福島をメンバ―それぞれが調査に訪れ、1年前と比較してまだまだ復興への道のりは遠いことを実感した。このことは、日本比較教育学会編『比較教育学研究』52号で特集「災害後のコミュニティ復興と教育の役割」として各人の論文をまとめるなかでも共通して意識したことである。 他方、今年度予定していた計画のうち、比較対象のひとつである中国・四川省の大地震被害後のコミュニティ復興については、調査に取り組んではいるものの、発表の場で検討結果を公表するまでには至っていない。最終年度は、こうした事例を含め、これまでの議論の総括を行う。その際には、災害後の復旧・復興過程における教育の役割をより具体的に示すこと、ならびに学校教育と社会教育・ノンフォーマル教育など、対象を複数の側面から取り上げるように努める。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、本研究の最終年度として、3年間の研究成果をまとめ、その成果を発表すること、ならびに今後の復興過程における教育の役割について、政策提言をまとめることを主要な目的とする。より具体的には、これまでの海外調査で繋がりのできた研究者や学校関係者を日本に招聘するとともに、本科研メンバ―以外の日本の研究者を含め、比較研究を進める。また招聘した研究者とともに日本の福島の現況・視察などを共に考える機会を設け、海外の研究者とともに海外と日本との相違点を明らかにする。そして、それらの成果を、平成28年度秋に予定している国際シンポジウムにおいて発表するとともに、日本における復旧・復興のあり方を考える上で重要な観点を政策提言としてまとめ、報告書にまとめて社会に発信する。 こうした一連の総括研究においては、平成28年4月に熊本県、大分県など九州で起きた大地震とその後の復興過程についても視野に含めたい。本研究の出発点は、2011年に起きた東日本大地震後の社会の復旧・復興と教育の役割を考えることにあり、日本比較教育学会の会員有志で組織された研究会にて、東北の現地視察調査およびアメリカ・ニューオリンズ、中国の四川大地震後の事例比較を試みたことがきっかけであった。しかしながら平成28年4月に起きた熊本県を中心とする一連の激震災害をふまえ、本研究が目指すべきものは、すでに起きてしまった災害後の社会変容だけではなく、今後起こり得る災害とその後の社会の復旧・復興を視野に入れた未来志向の研究であることを痛感した。その意味では、本年度に行う研究総括を、今後の研究の新たな出発点とするべく、より具体的で着実な成果発表を目指し、政策提言としてまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、本年度予定していた海外調査のうちの1件を、担当者の本務校の学事日程の関係で年度内に実施できなかったこと、また東京・上智大学にて行った研究打ち合わせ会合の際、研究会前後の予定との関係で、一部の出席者が、インターネット回線を利用した映像会議システムを利用して会議に参加したため、予定していた国内出張旅費を使用しなかったことによる。
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次年度使用額の使用計画 |
2016年度(最終年度)は、前年度に計画したとおり、次年度に繰り越した予算を用い、本研究の海外調査のカウンターパートおよび国内関係者を招聘し、総括シンポジウムを開催する。本シンポジウムでは、過年度の調査概要と結果を報告するとともに、招聘者による研究発表による知見をあわせ、本研究で追究してきたコミュニティ再生と学校教育の機能と課題を検討する。またそのうえで、今後の教育政策の提言をまとめる。招聘者は中国ならびに日本の研究者を予定しており、シンポジウムでは、日本(福島)・米(ニューオリンズ)、スリランカおよびニュージーランド(クライストチャーチ)、中国(四川省成都)の災害復興事例を取り上げる予定である。またシンポジウム終了後は、活動内容およびシンポジウムの概要と共に、提言内容を報告書にまとめ、研究成果の社会発信に努める。
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