研究のフィールドとなった市の教育委員会の指導主事より市内における「学びの共同体」への取り組みの状況の説明を受けた.市内の小中学校の取り組みの概要については,市教委が年度ごとに作成している事業研究成果報告書にて把握した.指導主事の紹介で,市内で開催される公開授業研究会に頻繁に参加した.中学校は大規模校から中規模校まで,5校,計9回参加した.中学校との比較のため,小学校2校,計2回訪問した.それらの授業観察と,学校関係者,市教委,研究会外部講師らの意見からのデータより,「学びの共同体」実践事例について比較考察を行い,いくつかの暫定的な知見が得られた: 1 「学びの共同体」実践は,生徒の学びのための落ち着いた学校環境を形成するために有効である.ただし,中学校の新鮮さを感じている第1学年と受験が迫る第3学年の中間に位置する第2学年は学校生活での緊張感が弱まり,学びが停滞している傾向がみられた.特に,女子生徒の学びへの参加には課題がしばしば指摘された. 2 「学びの共同体」実践は,単なる授業スタイルではなく,学校側の地道な生徒理解への取り組みと授業のための教材研究の努力によって初めて維持することができる. 3 生徒の学びを促進する「ジャンプの問題」は,「学びの共同体」の授業実践の最も核となるものであるが,その設定を適切に行うのには多くの教員が難しさを感じている. 4 すべての生徒の学びを保証する取り組みというビジョンは,従来の数学教育にみられる「多様な考え」を生かす指導理論や「習熟度別指導」の理論と相いれない部分がある.
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