高等教育段階の視覚障害者向け点字教材は墨字教材に比べ圧倒的に少ないうえ、拡大教材やデジタル教材は市販されていない。そのため、重度視覚障害学生は、自主学習教材についても自ら点字化・テキストデータ化等を依頼する必要があり、教材完成まで長時間待たねばならず時宜を逸してしまうことがある。良質のe-learning教材を開発している語学教材出版社は数多く存在するが、画面遷移にFlashを使っていることなどから、画面拡大表示ソフトウェアで拡大することができず、スクリーンリーダーで音声読み上げができないことが多い。このように、現状では、視覚障害学生の英語自主学習環境は十分整備されていない。 視覚障害者の英語学習では一般に、拡大文字・点字等のメディア変換教材と、音声やPC画面拡大等の情報補償=ICT環境が利用されている。しかし、これらの物理的な情報補償では十分対応できない事例が多々見られる。本研究では、平成26~27年度に引き続き、このようないわゆる「物理的情報補償」のみではなく、視覚障害対応の内容となるよう、問題構成自体にも工夫をくわえた「情報補償型コンテンツ」とし、物理的情報補償の上に総合的なe-learningシステムを構築した。
平成28年度は、資格試験対策や大学での英語学習の基本となる英文法を網羅し問題演習をくわえた『高校総合英語Forest 6th Edition』(桐原書店)を元データとし、教材を作成した。本教材では、解説部分に初めて図が利用されていたが、スクリーンリーダーで読み上げ可能な形に再構成し、研究当初の目的である、障害特性に配慮したコンテンツの作成・視覚障害学生の英語自習システムとして機能すること・弱視者用に文字サイズ/レイアウト/背景等を変更できる障害者対応システムであること・重度視覚障害者用に音声/点字出力も併用できること、を平成28年度においても達成できた。
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