特別支援教育分野において基本概念の理解における誤解や不統一が著しいために有効なインクルーシヴ教育の展開が阻害されているのではないかとの疑念から、新しい基盤理念開発を目指した萌芽的研究である。従来はノーマライゼーション理念を基盤にインクルーシヴ教育制度の構築が論じられてきたが、近年の日本ではノーマライゼーションの用語使用が激減した。これは現在のインクルーシヴ教育制度において基盤理念が脆弱であった証左である。新しい理念構築のために日本固有の文化や思考様式を念頭に置いて進めることが必要であると考え、日本でのノーマライゼーション理念とインクルーシヴ教育概念理解の特質を明らかにすることから着手し、教師を対象に複数の調査を計画・実施した。その結果、インクルーシヴ教育の概念の核である「包含」及び「多様性」のとらえ方に誤解がある一方、通級指導のような形態や学習集団の大きさが教師のインクルーシヴ教育のイメージとして誤って意識されている特徴が導かれた。こうした概念理解の誤りについて、ノーマライゼーション理念へのイメージとの関連性を検討した結果、一定の関連性があることが明らかとなった。教育的ニーズの多様性を包含することがインクルーシヴ教育概念の核心であるが、その理解の程度は環境条件への視座の把握によって明確にできることから、特に児童生徒の学習評価の場面を想定して意識調査を実施したところ、ニーズへの対応に必要な環境要因の考慮に欠ける状態が顕著であることが示された。日本におけるインクルーシヴ教育概念の理解は、学習における不利への対応、集団標準への同化性志向の強さ、及びニーズの包含概念への理解の不足という状態であり、世界において推進が模索されるインクルーシヴ教育とは異質の帰結につながることが危惧されるという結論が得られた。研究成果は世界を牽引してきたAinscow教授との直接協議で意義を確認した。
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