研究課題/領域番号 |
26590259
|
研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
蒲生 啓司 高知大学, 教育研究部総合科学系複合領域科学部門, 教授 (90204817)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 自閉症スペクトラム障害 / 精密質量分析 / メタボローム解析 / 低分子極性物質 / 多変量解析 |
研究実績の概要 |
今日,自閉症スペクトラム障害(以下ASD)の有病率は急増しているが,ASD研究において,病因が未解明であること,更にASDの化学的診断が確立できていないことが問題点としてあげられている。ASDにおける早期療育は効果が高いことが分かっているため,我々は,ASDの早期診断のためのバイオマーカーの検索について研究を開始した。分析に用いる試料は,対象者に対し非侵襲的でありかつ簡便に採取できる唾液とした。本研究では, LC/MS法により唾液試料中の化学的成分を分析し,分析結果から差異解析ソフトを用いる自閉症群と定型発達群の比較分析を行うことによって,自閉症特有のバイオマーカーを見出すことを目的としている。 26年度で得られている分析結果を基に,27年度は差異解析の設定を変えることで,特定化される物質の再検索を行った。先行研究データを用いて,統計解析ソフトSIEVE(Thermo Fisher社製)により,自閉症群12検体と定型発達群24検体の比較解析を行った。定型発達群は,全50検体のうちからランダムに24検体を選び,3パターンを設定すると共に,2群間の差異を統計的有意差と相対比によって表し,得られた測定精密質量(m/z)からデータベース検索を行った。各パターンの解析結果を有意差0.001以下で,保持時間の短い低分子物質に的をしぼると,幾つかのm/z値を示す物質が推測された。更に3パターンで同じm/z値であったものをまとめると,12種類に収束され,m/z値からデータベース検索により得られた物質をASDのバイオマーカー候補物質とした。一方,検索する分析対象を低分子極性物質と限定して,専用の分離カラムSS-C18(Imtakt社製)を用いて,同様に自閉症者と定型発達者の唾液サンプルを採取後,前処理を施すことで,分析に供した。低分子極性物質として,カテコールアミン類やアミノ酸など 15成分を分析の対象とし,一斉分析が可能となる移動相の条件を検討した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
27年度は,同一試料を用いて26年度から継続した唾液試料分析の再現性を確認し,その解析条件の検討結果より,12種類のm/z値を示すASDのバイオマーカーとして有力な候補物質が推測された。26年度の成果以上の成果が得られ,ASDの診断を客観的な数値によって判断することの可能性を見出すことができた。更にそれらのバイオマーカーとしての候補物質を特定するために,それらが内因性物質であるかを判断する必要があり,推測された各物質の標準試料を入手して分析し,候補物質との保持時間の挙動を検討する必要がある。一方,27年度に予定していた社会性欠如モデルマウスの生体試料を用いるメタボローム解析は,試料提供を受けることが難しくなり実施できなかったので,28年度に実施することになったことから,達成度を③とした。
|
今後の研究の推進方策 |
最終年度の課題として,分離条件の検討と共に極性低分子物質に絞ったASDのバイオマーカーとしての候補物質を特定するために,推測された各物質の標準試料を入手して分析し,推測された候補物質との保持時間の挙動を検討する必要がある。更にサンプル数を増やしていくことで,分析結果の実証性を得ていく。また,社会性欠如モデルマウスの生体試料を用いる分析結果から,体内の化学物質の「差異」がメタボローム解析的に見出されたかどうかの評価を行うと共に,コントロールマウスとの差異解析の結果から,医学的に発達障害の解明をアプローチする。SIEVEによる解析結果から得られた候補化合物の生合成や代謝経路から,ASD発症および診断との関連性を検討していく必要がある。
|
次年度使用額が生じた理由 |
27年度は,モデルマウスの生体試料を使った分析を行う予定でその供給を受けるための打合せ出張旅費と,生体試料の前処理用キット一式を購入する予定で計上したが,試料の入手が困難になったため,27年度での分析を見送らざるを得ない状況になったこと,また,精密質量分析器のメンテナンスに関わる消耗品の購入が予定されることから,次年度使用額として当該助成金が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
28年度は,27年度繰越した助成金を,モデルマウスの生体試料の供給を受けるための出張旅費と,血液試料の前処理用キット一式の購入,計測機器のメンテナンスに関わる消耗品の購入に充てる。また,統計処理の多変量解析ソフトのトレーニング経費,標準試料の購入費及び研究成果公表のための学会発表等のための旅費として使用する。
|