自閉症スペクトラム障害(ASD)の診断は,行動から症状を判断する診断が行われているが,早期診断は難しい。近年,ASDと関連があるとされる遺伝子が報告されているが,診断マーカーとしての利用は未だされていない。28年度は,27年度のデータ収集の進度に応じて,自閉症者と定型発達者の唾液成分の比較を行う観点から,同一試料を用いて再現性確認のための繰返し実験を行った。一方,研究協力者との検討の結果より,セリンプロテアーゼ(motopsin)が欠損した発達障害モデルマウスを用いて,それらの血清成分の比較から,血清成分の「差異」がメタボローム解析的に見出されるかどうかの評価を行った。即ち,motopsin欠損(KO)マウスと対照としてのヘテロ(Het)マウスを分析の対象として,それらの血清中のアミノ酸を中心とした化学成分の詳細な検討を行うことで,発達障害の診断について知見を得る研究を行った。1)マウス血清成分を,LC/MSの分析グラジエント条件を検討して改めて測定した。2)内部標準法により,カテコールアミン類を含む17成分又はたんぱく質構成アミノ酸20成分について,それぞれ血中濃度を算出した。3)得られた濃度について,二元配置の分散分析により有意差のある物質を明らかにした。統計解析の結果,KOマウスとHetマウスでアラニンに有意差が認められた。このことから,motopsin欠損とアラニン濃度に関係があることが示唆された。また,メチオニンなどの 7種類のアミノ酸についても有意差が認められた。有意差の見られたアミノ酸の中には,神経伝達系と関係するグリシンやトリプトファンも含まれていた。KOマウスとHetマウスでの血清成分の比較では,遺伝子型の違いに基づく差が観察されたことに加え,雌雄の違いによる差も観察されたことから,更に雌雄を考慮した解析を行っていく必要性があると考えられた。
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