研究実績の概要 |
本研究課題では、半導体量子ドット中に単一の磁性スピンを含む系を作製し、ドット中の単一スピンの振舞いを磁気光学的手法により詳細に調べ、その振舞いを制御する手法を開発することにより、単一スピンを用いたメモリーの実現の可能性を検証することを目的に研究を行っている。今年度は、前年度に引き続き、Cr原子1個を含むCdTeの自己形成ドットを作製し、その発光特性を調べた。分子線エピタキシー(MBE)により、ZnTe(格子不整合率 5.8%)層の表面にCdTeを積層し、歪による島状成長を利用してドットの自己形成を生じさせ、さらにCdTe層積層時に供給するCr分子線量が適量になるよう調整し、ドット1個当たりちょうどCr原子1個を含むCdTe自己形成ドットを作製した。顕微分光測定により単一のドットからの発光を検出し、ドット中の単一のCr2+イオンのd電子スピンとドットに束縛された励起子スピンとの交換相互作用により分裂した発光線を観測した。さらに磁場中での発光線のエネルギーシフトを観測し、励起子スピンによるゼーマン分裂、および他の準位との反交差現象などこの系に特徴的な振舞いを見出した。交換相互作用による発光線の分裂およびその磁場依存性を詳細に解析した結果、ドット中の格子歪がCr2+イオンのd電子準位に大きく影響していることが明らかとなった。また対照データとして、歪のないドット中の単一Cr2+スピンの振舞いを明らかにすることを目指し、CdTe/(Cd,Mg)Teの量子井戸における井戸幅の揺らぎを利用した0次元閉じ込めのドット試料の作製に着手した。
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