研究課題/領域番号 |
26600011
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
小久保 伸人 電気通信大学, 情報理工学(系)研究科, 准教授 (80372340)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 超伝導材料・素子 / 量子渦 / メゾスコピック系 / 走査プローブ顕微鏡(SSM) / 低温物性 |
研究実績の概要 |
小さな超伝導体に現れる量子渦の配置を使って情報の基本単位を表現する超伝導量子渦ビットの試作に取り組んだ。構造は基本的に超伝導二層膜である。量子渦を閉じ込める正方形状(または手裏剣状)の小さな穴(アンチドット)を微細加工し量子渦ビットとした。僅かな磁場を試料に印加しながら超伝導転移温度以下に冷却すると、アンチドット内に量子化された磁束が侵入し、その周りに量子渦が誘起される。量子渦はアンチドットの形状を反映した独特な構造を組み、誘起された渦数に応じて変化する。今回、アンチドットに2つの量子渦を誘起した状態に着目し、超伝導量子干渉計を使った磁気顕微鏡(走査SQUID磁気顕微鏡)を用いて量子渦の配置を調べた。2つの量子渦は正方形が持つ対角線上に並びやすい特徴を有し、2本ある対角線のそれぞれに揃った等価な2状態が現われた。これらを“0”と”1”の状態と対応させる。詳しく調べると正方形の辺に平行な準安定な配置も現れてしまうため、アンチドットの形状を正方形から手裏剣形へ変更し準安定な配置の出現を抑えた。次に、量子渦ビットの2つの配置状態を制御するため、アンチドット近傍に超伝導細線を設けた。電流パルスを印加したところ、アンチドット内の量子渦配列状態を“0”から“1”へ変化させ、さらに逆向きのパルスで“1”から“0”へ状態を戻せることができた。以上の結果から、超伝導アンチドットの量子渦ビットが示す最も基本的な動作を実証することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題研究では初年度にアンチドット型の超伝導量子渦ビットの試作とその基本動作の実証を目指した。試料作製が順調に進んだため、早い時期に走査SQUID磁気顕微鏡を用いた量子渦状態の観測実験に取り組むことができた。量子渦ビットで重要となる量子渦ペアの等価な2状態の他に、準安定な状態が現われることが分かり、量子渦ビットの見直しが必要となったが、アンチドットの形状を正方形から手裏剣形へ変更することにより課題を解決することができた。さらに、次年度に予定していた電流パルスによる量子渦ビットの制御にも前倒しして取り組み、予想通りの結果を得ることができた。一方、アンチドットを並べたワイヤと呼ばれる論理ゲートの試作も同時に進めたが、十分な成果は得られていない。アンチドット間の相互作用が不十分である可能性があり、課題を残した。
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今後の研究の推進方策 |
セルオートマトンの原理に従う量子渦ビットを使った論理ゲートの動作原理を実証するため、まず課題となっているアンチドット間の相互作用を見直す。アンチドット間の距離を変化させた試料を作製し、走査SQUID磁気顕微鏡を用いて最適な条件を見出したい。 さらに、2状態の重ね合わせが期待されるナノサイズの量子渦ドットの試作も同時に進める。観測には試料表面の電子状態に敏感な走査トンネル顕微鏡が必要であり、試料の大気暴露が許されない。このため微細な凹凸基板を利用した量子渦ドットの作製を真空チャンバー内で試みる。低温走査トンネル顕微鏡と組み合わせ可能な小型で持ち運びできる成膜装置の作製も進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
東北大学金属材料研究所にて走査SQUID磁気顕微鏡実験が可能となり寒剤予算を節約することができたため、未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
別途新しいスパッタ源が必要となったので、未使用額をその経費に充てたい。
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