本研究では、小さな超伝導体に現れる量子渦の配置を使って、情報の基本単位を表現する超伝導量子渦ビットを試作し、セル・オートマトンの原理にしたがう論理ゲートの構築を目指した。構造は基本的に超伝導二層膜で、量子渦を閉じ込める正方形状の小さな穴(アンチドットセル)を並べたものである。各セルに現れる量子渦ペアの向きに着目し、これがセルの対角線に揃うエネルギー的に等価な2状態を“0”と”1”の論理状態と見なす。量子渦どうしにはたらく斥力相互作用を巧みに用いることにより、隣接するセル間で論理状態の遷移が可能となり、セル・オートマトンの原理にしたがう論理ゲートが期待できる。最終年度は、これまで進めてきたワイヤと呼ばれる一列にセルを並べた論理ゲートにさらなる改良を加え、すべてのセルに量子渦ペアが出現する外部磁場のマージンの確保を目標とし、走査SQUID磁気顕微鏡による繰り返し観察から各セルに閉じ込めた量子渦数および論理状態の統計分析を進めた。その結果、(1)すべてのセルに量子渦ペアが占める磁場マージンは、アンチドットの大きさと間隔が小さくなるにしたがって広がること、(2)セル間の間隔が量子渦の大きさ(数ミクロン)程度になると、論理状態を示す量子渦ペアの向きは、少なくとも6セルまでの範囲で、すべて同じ方向に揃うことがわかった。電流パルスによる論理状態の制御には課題が残ったが、論理ゲートの動作評価に必要な初期状態を実現できたことで、今後の量子渦を使ったセル・オートマトンの原理の実証につながる成果となった。
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