研究課題/領域番号 |
26600012
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
山田 省二 北陸先端科学技術大学院大学, ナノマテリアルテクノロジーセンター, 教授 (00262593)
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研究分担者 |
岩瀬 比宇麻 北陸先端科学技術大学院大学, ナノマテリアルテクノロジーセンター, 助教 (10709132)
村上 修一 東京工業大学, 理工学研究科, 教授 (30282685)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | スピンホール効果 / 2次元電子ガス2層系 / 逆スピンホール効果 |
研究実績の概要 |
本研究では、2次元電子ガス2層系における共鳴的スピンホール効果の世界初の実験的観測・確認をめざしているが、平成26年度の実績概要は以下のようなものであった。 実験面では、 1.ベースとなる2層系2次元電子ガスに必須な条件として、2層ともRashba型スピン軌道相互作用が強く、シート電子濃度がほぼ同じで、少なくとも片方がゲート制御可能であることがあげられるが、系統的に層構造や変調ドーピング条件を変化させた結晶成長により、ほぼこの条件を満たすヘテロ構造作製に成功した。 2.上記の構造を用い、非局所測定を前提とした共鳴スピンホール効果素子(多端子ホールバー)を設計・試作した。スピン注入部はスピンホール効果によるスピン流発生が可能な幅広電圧端子を持ち、スピン拡散部を挟んで反対側の逆スピンホール効果検出部は、2次元電子ガスの上下方向、及び電流方向の電位降下を多段で測る多電圧端子構造をもつ。これは、初めて観測する2層系の逆スピンホール効果で、電圧がどの方向で最も強く観測されるかがまだ不明なことによる。スピン注入部、拡散部、検出部とも独立なトップゲートをもち、それらを同時に掃引することで、共鳴現象を惹起・検出し、逆スピンホール効果の観測を狙う。現段階で、これら一連の素子作製に成功し、予備的な極低温測定を開始した。 理論ではRashba相互作用を持つ系を組み合わせることにより新奇なバンド構造が出現する可能性について探索した。Rashba系にはカイラリティという自由度があり+と-の2通りを取り得る。こうしたRashba系の積層順を変えると多様なバンド構造が出ることを見いだした。特に+--++--+のようなパターンで積層することで、パラメタ値の広い範囲でバルクバンドの間に表面束縛状態が出現する。これは既存の表面状態の出現機構では説明しにくく物理的起源は不明であるが、実験との関連では大変興味深い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に記した2項目は本研究の推進に当たり必須のものである。1.については、これまでの分子線エピタキシー成長の経験を踏まえるとある程度の時間があれば達成可能であると考えられたが、In[0.75] Ga[0.25]As/ In[0.75] Al[0.25]Asなるヘテロ接合系でほぼ予定通りにベース材料を実現できた。2.については、どのような素子にすべきか、設計基準がはっきりしなかったが、金属系におけるスピンホール効果実験を参考にし、半導体メサ構造をベースにした非局所スピンバルブ素子に類するものを設計・作製した。作製上の最大の困難は、逆スピンホール効果測定部に短い間隔で設置するメサから引き出す電圧端子群の作製であったが、電子ビーム露光と先端的なドライエッチング技術を駆使することにより大体解決することができた。 すなわち、最初の年度内で、測定に耐えうる、強磁性体を一切使わない素子が設計・作製できたのは、きわめて順調なペースであると考えられる。 また理論面では、2次元電子ガス2層系の相互作用におけるRashba型スピン軌道相互作用のカイラリティ(実効磁場の向き)の問題は、極めて重要ではあるがまだ不明であった。この問題に最初のアプローチを試みた。その結果、特別なモデル構造において新しい結果も得られており、着実な進展を見せている。この点も順調であるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、最初の試作で得られた一連の素子を極低温で系統的に測定解析する。これにより、2層2次元電子ガス系における共鳴スピンホール効果観測の可能性を慎重に検討する。測定は交流微小電流測定で行う。特に、ゲート電圧による、上側の2次元電子ガスのシート電子濃度制御を、スピンホール効果注入部、スピン拡散部、逆スピンホール効果検出部について順次行い、共鳴条件の抽出・観測に取り組む。逆スピンホール電圧検出に関しては、上下、前後の電圧端子依存性を系統的に検証する。 また、第2次試作で参照用に作製した逆スピンホール効果観測部に強磁性体電極をもつ素子についても順次極低温測定を開始する。但し、この試作素子の歩留まりは極めて悪いので、プロセス上の問題点を検討、・克服したのち、新たな試作も検討する。 これらにより、研究期間内での、2層系2次元電子ガスにおける共鳴スピンホール効果の観測・確認をめざす。
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次年度使用額が生じた理由 |
主に計算機関係の物品費支出が予想より小さかったこと、また他予算獲得により旅費の支出を抑えられたことなどによる。
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次年度使用額の使用計画 |
研究代表者移動に伴い、増大すると思われる支出、即ち極低温測定のための液体ヘリウム費用、プロセス関係材料(金属原料、レジスト関連製品など)費、研究分担者の旅費などに充てる予定である。
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