研究課題/領域番号 |
26600016
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
佐藤 徹哉 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (20162448)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 局在表面プラズモン共鳴 / Auナノ粒子 / 磁気異方性制御 / 磁気秩序操作 / Coフェライト / Pdナノ粒子 / ファラデー効果 |
研究実績の概要 |
Auに生じる局在表面プラズモン共鳴(LSPR)を用いて周囲の物質の磁気的性質を操作することを目的に2つの研究課題を遂行した。 まず、Auナノ粒子を用いてCoフェライトの磁気異方性の制御を目指した。基板上にAuナノ粒子を成長させ、上方からCoフェライトをスパッタした後熱処理することでAuナノ粒子が埋め込まれたCoフェライト膜を作成した。紫外可視分光光度計を用いて、LSPRに伴う光吸収が生じる波長を調べた。作製した試料のファラデー回転角の波長依存性を測定した結果、LSPRが発現する波長でファラデー効果の顕著な変化を見出した。次に、ファラデー回転角の磁場依存性を複数の照射光波長において測定した結果、保磁力はLSPRが発現する波長付近で減少することが分かった。これは、LSPRを用いた磁気異方性制御の可能性を示唆する結果である。一方、同じ試料に対してSQUID磁力計内でLSPR波長に近い波長を持つレーザー光を照射して磁化測定を行った結果、光照射に伴う保磁力変化は観察されなかった。これは、今回作製した試料はCoフェライト膜下部にのみAuナノ粒子が存在する構造を持ち、Auナノ粒子とCoフェライトの接触面積が小さいために磁気測定での保磁力変化が十分に観測できなかったものと考えられる。 次に、ナノ粒子状態において強磁性を発現するPdナノ粒子とAuナノ粒子の混合試料を用いて、LSPRによるPdナノ粒子の磁化制御を目指した。化学的手法により作製した、ともに強磁性を示す3.7 nmのPdナノ粒子と5.0 nmのAuナノ粒子を混合し、約40%のPdナノ粒子がAuナノ粒子に隣接する試料を作製した。SQUID磁力計内でLSPR波長に近い波長を持つレーザー光を用いて光照射を行いながら磁化測定を行った。その結果、光照射の有無で有意な磁性変化を見出すに至らなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
Auの局在表面プラズモン共鳴に伴い、周囲のCoフェライトの磁気異方性が顕著に変化する挙動がファラデー効果により観測さたことは本研究における重要な知見である。しかし、磁気測定から同様の結果が得られていないことから、最終的な結論を得るには至っていない点が今後の課題である。 Pdの磁性をAuの局在表面プラズモン共鳴で制御する研究では、まだ明確な結果は得られおらず、今後試料作製の面からも検討が必要である。 また、当初目標とした、マグネタイト/Au共凝集ナノ粒子集合体の磁気秩序制御に関する研究は、試料作製方法の確立のみが終わった段階で、測定はほとんど進行しておらず、2年目に回すこととなった。 これより、1年目に目標とした重要な知見は得られたが、進捗が十分でない点があるため、やや遅れているとした。
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今後の研究の推進方策 |
磁気測定を用いたAuの局在表面プラズモン共鳴に伴う磁気異方性および磁気秩序変化を検出して、この磁性制御に関して明確な結論を得ることを第一義と考えている。さらに、この課題を進める上で、電子スピン共鳴を用いた新たな実験にも進む予定である。 また、マグネタイト/Au共凝集ナノ粒子集合体の磁気秩序制御に関する研究を並行して進めていく。試料作製方法に関してはすでに確立していることから、測定を行うことで確実に予定された研究が進展できるものと考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画していたマグネタイト/Au共凝集ナノ粒子集合体に関する研究の進捗が予定より遅れたこと、およびSQUID磁気測定装置の不調で装置の使用頻度が少なくなったため、使用額が予定額を下回った。
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次年度使用額の使用計画 |
マグネタイト/Au共凝集ナノ粒子集合体に関する研究を進めること、およびこれまで行ってきた研究課題を速やかに進める上でSQUID磁力計を用いた磁気測定を多用し、さらに電子スピン共鳴装置の利用なども予定していることから、これらに予算を使用する予定である。
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