Auに生じる局在表面プラズモン共鳴(LSPR)を用いて周囲の物質の磁気的性質を操作することを目的に2つの研究課題を遂行してきた。 まず、Auナノ粒子を用いてCoフェライトの磁気異方性の制御を目指した。基板上にAuナノ粒子を成長させ、Coフェライトをスパッタし熱処理することでAuナノ粒子が埋め込まれたCoフェライト膜を作製した。ファラデー効果測定ではLSPRが生じる波長領域で保磁力の顕著な減少が見出されたが、LSPR近傍の波長を持つレーザーを照射して磁気測定を行った際には、明確な保磁力の変化は見られなかった。この原因を解明するために、AuとCoフェライトとの接触状況の均一性と接触面積の増大を目指して電子線リソグラフを用いてAuピラーを作成した。さらに、Coフェライトの結晶性の向上を図るために、熱処理時に十分な酸素供給を行えるよう装置を改良した。このようにして作製したAu/ Coフェライト試料の磁気測定をLSPR近傍の波長を持つレーザーの照射下で行ったが、保磁力の顕著な変化を見出すことができなかった。これより、AuのLSPRに伴う周囲のCoフェライトの状態変化の観測は測定方法の持つ時間スケールなどに影響されることが分かった。 次に、マグネタイトナノ粒子とAuナノ粒子の混合試料およびマグネタイト/Auコアシェル粒子を用いて、LSPRがマグネタイトナノ粒子の磁性、特に磁気異方性に与える影響を検討した。マグネタイトナノ粒子はコアと表面付近で磁化方向が異なることが見出されており、LSPRが粒子表面近傍に影響を与えるならば磁化変化が顕著に現れるものと期待される。LSPR近傍の波長を持つレーザーの照射下で作成試料の磁気測定を行った結果、わずかな磁化の減少は見られるものの、保磁力の変化は検出されなかった。さらに強磁性共鳴にもレーザーの照射の影響は認められなかった。
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