研究課題/領域番号 |
26600017
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
村上 洋 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 量子ビーム応用研究センター, 研究職 (50291092)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ホールバーニング / 逆ミセル / ガラス / 水 / 色素分子 / 光記録 / ナノ |
研究実績の概要 |
室温かつ液体中であるにも関わらず、ナノメートルサイズの空間拘束により分子の光応答など量子過程の緩和を劇的に抑制できると考えている。 本研究の目的はその可能性の検証である。 逆ミセルは、油溶媒中で界面活性剤分子の会合により作られたナノメートルサイズの球状の殻の中に水を含み、その水中に水溶性分子を溶かすことができる。 我々は、最近逆ミセル中において室温で色素分子の周りの水がガラス的状態になり、また、格子緩和エネルギーの減少を示す結果を得た。 これは、色素分子が受ける緩和がナノ空間拘束により抑制されることを意味する。 そこで、逆ミセル中色素分子に対して、 永続的ホールバーニングの検証実験を行い、 分子の光応答の緩和抑制に及ぼすガラス的状態と格子緩和減少の効果を明らかにする。 これは室温・液体中光情報記録の検証である。 現在情報記録素子は固体であり、液体状態で実現された例はない。 本年度は、前年度に構築した永続的ホールバーニング分光装置を用いた測定を実施した。まず、色素分子の選定やレーザー照射条件などのスクリーニング実験を行い、実験条件を決めた。また、前年度使用していたキャピラリーセルの測定不具合の解消のためガラス製マイクロセルを特注し液体試料測定の精度を大幅に改善した。そして、水、高分子膜(ガラス物質)、逆ミセル中に色素分子を導入し、ホールバーニング分光の励起周波数依存性測定を実施した。スペクトルの励起周波数依存性(サイト選択励起)があれば、系がガラス状態であることが示される。液体状態の水ではその依存性が観測されなかったのに対し、高分子膜と逆ミセルでは見られた。この結果により、逆ミセル内の色素分子の周りの水の状態がガラス的であることが確認できた。サイト選択が起こる励起条件で、ホールスペクトル幅の先鋭化が起こり逆ミセル中色素分子の吸収の均一スペクトルが狭いことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. ホールバーニング条件等実験条件のスクリーニングの完了 ホールバーニングに適する色素分子の選定を行うと共に、ホールバーニング条件である、レーザー光強度、波長及び照射時間等のスクリーニングを行った。水溶液試料でローダミン6Gが光退色に起因して室温で永続的ホールバーニングが起こることが分かった。また、前年度使用したガラスキャピラリーセルは非常に細いため円柱形状の精度が悪く透過白色光が歪む。また、密閉度が悪く溶媒が揮発するという問題があった。そのために、金属やガラス製の特注セルをいくつか試作し、セプタム栓付きガラスマイクロセルで精度良く測定できることが分かった。 2.水、高分子膜、逆ミセル中色素分子のサイト選択励起の有無の検証 まず、水溶液の結果から液体状態ではサイト選択励起が起こらないことを確認した。高分子膜では室温でガラス状態にあるポリビニルアルコール中にローダミン6Gを溶かした薄膜を対象とした。振電バンド領域を励起した場合、励起周波数に依存したスペクトル変化がほとんどないのに対して電子遷移バンドを励起した場合、その変化が観測された。ガラス状態に起因するサイト選択励起が起こることが確認できた。しかし、ホールスペクトル幅は非常に広く、吸収スペクトルの均一広がりが広いことが分かった。また、励起周波数が高くなるにつれて光退色効率が高くなった。逆ミセルでは、逆ミセル内水滴半径約1nmの試料を対象とした。振電バンド領域を励起した場合、励起周波数に依存したスペクトル変化がないのに対して電子遷移バンドを励起した場合、その変化が観測された。逆ミセル中の色素分子の周りの水の状態がガラス的になっていることが示された。また、ホールスペクトルの先鋭化が確認できた。逆ミセル中で格子緩和エネルギーが小さいことによる均一広がりの尖鋭化の存在が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
1.高いサイト選択性を実現できる色素分子の探索とホールバーニング実験 ローダミン6G導入逆ミセルの永続ホールバーニング分光により、逆ミセルでサイト選択及びホールスペクトルの先鋭化が起こることが分かった。しかし、光退色効率が振電遷移励起の方が電子遷移励起の場合より高いために、スペクトルに現れるサイト選択性は下がる。また、光退色効率が低いために、高い強度のレーザー励起が必要であり、系内に蓄積される余剰エネルギーに起因した緩和過程が起こることが示唆された。このような条件下でホールスペクトルの先鋭化を詳細に調べることは難しい。そこで、光退色効率が高い、振電遷移バンドと電子遷移バンドが分離している色素分子の探索を行う。候補としては、フォトクロミック分子やポルフィリン系色素を考えている。さらに、逆ミセルへの導入のために水溶性が必要である。そのような分子の探索及び適用性のスクリーニングを実施し、逆ミセル中のホールスペクトルの先鋭化の詳細な実験及びホールバーニング分光の逆ミセルサイズ依存性測定を行う。また、室温以上に温度変化しホールスペクトル時間発展を観測しホール信号消去の機構等を調べる。多周波数光記憶素子への適用性を明らかにするために、ホールスペクトルの記録密度を調べる。 2.ホールバーニングスペクトルの計算 逆ミセル及び高分子膜中色素分子で得られたホールバーニングスペクトルの理論的解析を行う。振電遷移バンド及び光退色効率の電子・振電遷移比を考慮し、吸収スペクトルの不均一広がり及び均一広がりをパラメータとし、ホールバーニングスペクトルの励起レーザー周波数依存性を計算する。ホールスペクトルの先鋭化条件や振電遷移バンドが及ぼすホールスペクトルへの効果等を明らかにする。 3.論文投稿 まず、これまでの結果をまとめ論文投稿を行う。そして、上記1.と2.の結果を基に研究を総括する論文を投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
化学薬品の選定を次年度に移行したため
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次年度使用額の使用計画 |
化学薬品の購入に使用する
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