研究課題/領域番号 |
26600021
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
並河 英紀 山形大学, 理学部, 教授 (30372262)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 脂質二重膜 / リポソーム / ポリオキソメタレート |
研究実績の概要 |
直径数nmの金属酸化物ナノクラスターであるポリオキソメタレート(POM)がウイルスと類似した機構により細胞崩壊を誘起する抗菌活性を有し、従来研究されてきた抗菌性ペプチド・ナノ粒子とは全く異なる機能・応用可能性を有する第三の抗菌化合物であるとして報告された(H. Nabika et al., RSC Adv., in press)。本研究では、その発現機構の実験的立証を第一の目的とし、モデル細胞膜を用いた崩壊度評価において、POM並びに細胞膜の組成・構造が及ぼす影響を検証する。これにより得られる崩壊度-細胞膜の相関図は「どの様な組成を有する細胞膜が特異的に崩壊するのか」に対する答えを与えている。そこで第二の目標とし、この「POMの抗菌活性を受けやすい細胞膜組成の特定」に基づき、「POMの抗菌活性を受けやすい細胞群の提案」を目指す。その目的へ向け、平成26年度にはベシクル崩壊におけるPOM構造依存性を中心に検討した。その結果、POM構造により、ベシクル崩壊に対する速度論的制御ならびに最大崩壊効率制御が可能となることが明らかとなった。また、平成27年度の課題である、ベシクル崩壊における膜構造・組成依存性の予備的検討も可能な限り進めることとした。その結果、ゲル-液晶相転移温度付近にてベシクル崩壊効率が最大となる相状態依存性を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画においては、平成26年度にベシクル崩壊に対するPOM構造依存性、平成27年度に相状態依存性を検討することを目標とした。平成26年度目標のPOM構造依存性に関しては、POMのサイズ増加に伴う(1)活性化エネルギーの増大ならびに(2)熱力学的安定化エネルギーの増大の二つの独立した効果があることを見出した。本結果は、POMの形状により細胞膜の崩壊に対するダイナミクスと崩壊効率を独立的に制御することが可能であることを示唆する結果であり、将来的に抗菌性化合物として応用する際に重要な知見を得ることに成功した。更に、平成27年度の研究目的である相状態依存性についても重要な実験結果を得ることに成功した。つまり、ベシクルの相状態を変動させた際の崩壊効率を検証した結果、特定の相転移状態において特異的に崩壊効率が高まることを実験的に確認した。本結果は、相転移状態にて形成される二相界面領域に特有の乱れた構造に由来することが示唆されている。 以上より、平成26年度は、当初計画を達成するのみならず、平成27年度の検討内容も一部前倒しで実施し非常に有用な研究成果を得ることに成功し、当初の計画以上に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の中心的課題はベシクル崩壊における二重膜の構造・組成・相状態依存性の明確化である。既に平成26年度に相状態依存性に関する重要な知見を得ている。平成27年度には、脂質分子にステロール系分子などを添加し、その組成ならびに構造および相状態依存性を実験的に明確化することを目標とする。 具体的には、ベシクルフュージョン法で作成した脂質二重膜にPOMを添加し、その際の膜構造の変化を蛍光顕微鏡、レーザー全反射顕微鏡、水晶振動子マイクロバランス法などの多岐にわたる分析機器にて評価し、膜崩壊に対する定量的評価を行う。また、これらの実験を組成の異なる脂質二重膜で実施、あるいは、同一組成の二重膜に対して異なる温度で実施することで、POMによる二重膜崩壊に対する組成・構造・相状態依存性を系統的に評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
試薬費の一部が端数として残っております。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度予算と合算し、試薬購入費に充てます。
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