近年,有機太陽電池や有機ELなどに用いられる電荷輸送性材料として,π共役系が三次元に広がった化合物の開発が注目されている。π共役配位子を用いた金属錯体の形成により,多彩な三次元構造を構築することが可能であり,例えば8-キノリノールを配位子にもつAlq3は優れた電子輸送性材料として知られている。この8-キノリノールのπ共役系を拡張することにより,強い分子間π-π相互作用を示す新たな三次元π共役金属錯体の合成が可能になると考えた。 本研究では,パラジウム触媒による分子内直接アリール化反応を用いる手法により,π拡張型8-キノリノール配位子を合成し,添加剤と反応温度の工夫により環化の位置選択性を制御できることを見出した。DFT計算の結果,添加剤としてピバル酸を加えた120 ℃における加熱条件化では協奏的メタル化-脱プロトン化 (CMD) 機構,ピバル酸を添加しない180 ℃での加熱条件ではHeck型反応の機構で環化が進行することが示唆された。さらに,得られたアザペリレン骨格を含むキノリノール誘導体を脱保護した後,Al(OiPr)3との反応によりアルミニウム錯体の形成を試みた結果,目的とする錯体が濃紫色固体として得られた。1H NMR測定の結果から,このAl錯体は溶液中でAlq3と同様のmeridional構造をもつと考えられる。この錯体の単結晶を育成し,X線結晶構造解析を行ったところ,錯体は二次元ハニカム型シート構造を形成し,そのシート同士が分子間π-π相互作用による積層構造を構築していることがわかった。
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