近年、蛋白質からなるバイオナノマテリアルの開発に注目が集まっている。研究代表者は、独自の鋳型内交互積層法により中空シリンダー構造の蛋白質ナノチューブを合成し、その内孔空間を利用した様々な機能発現に成功している。本研究ではこれまでの知見を大きく発展させ、微生物の捕捉に挑戦した。具体的には、大腸菌を効率よくトラップできる蛋白質マイクロチューブの開発を目指した。2年間の研究期間内に所望の蛋白質中空シリンダーを合成し、効率的な大腸菌捕捉能、殺菌能を実証することができた。 ①蛋白質マイクロチューブの精密合成と微細構造解析:多孔質ポリカーボネイト(PC)膜を鋳型とした交互積層法により、蛋白質マイクロチューブを合成した。中空管の構造を各種電子顕微鏡観察により測定。 ②大腸菌捕捉能の評価:大腸菌(E.coli K12株)分散液に蛋白質マイクロチューブを加え、LB agarプレートに播種・培養すると、コロニーは1つも形成されない。チューブ内孔に大腸菌が100%捕捉されていることがわかった。 ③銀ナノ粒子含有蛋白質マイクロチューブの合成(最終年度成果):銀ナノ粒子(AgNP)を階層成分として含むマイクロチューブを調製した。AgNPは負電荷層として使用したが、AgNP溶液のみでは形態安定性の高いチューブが得られなかったので、ヒト血清アルブミン(HSA)とAgNPの混合溶液を用いてマイクロチューブを作成した。構造を電子顕微鏡観察により測定。得られた銀ナノ粒子含有蛋白質マイクロチューブは、さらに高い大腸菌殺菌能を有すると期待される。 得られた成果をまとめ、大腸菌を効率よく捕集できる蛋白質マイクロチューブ すなわち“極微小サイズの生物トラップ”の合成法、構造、有効性に関する知見を得た。本成果は、病原性大腸菌の駆除に応用できると考えられ、人類の健康・福祉に与える波及効果と意義はきわめて大きい。
|