研究課題/領域番号 |
26600031
|
研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
湯田坂 雅子 独立行政法人産業技術総合研究所, ナノチューブ応用研究センター, 招聘研究員 (70159226)
|
研究分担者 |
横山 敦郎 北海道大学, 歯学研究科(研究院), 教授 (20210627)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | ナノホーン / 表面被覆 / マクロファージ / リソソーム |
研究実績の概要 |
ナノカーボン(NC)は投与経路によらず、体内では最終的にはマクロファージに取り込まれるので、本研究ではマクロファージによるNCの貪食や毒性発現について研究を行っている。NCはマクロファージに取り込まれて、活性酸素産生を亢進し細胞や生体に悪影響を及ぼすとされているが、活性酸素発生機構に関してはよくわかっていなかった、我々はカーボンナノホーン(CNH)を対象にして研究を進め、CNHが大量にマクロファージに取り込まれ、リソソームに蓄積されると、リソソーム膜が壊れカテプシンが漏出し細胞死が起こることを明らかにしている。引き続き26年度に行った研究から、漏出カテプシンは、ミトコンドリア障害を惹起し、ROS産生を促進することを見出した。 マウス実験では、CNHの表面コーティング剤がリソソーム膜障害を起こす場合があることを明らかにした。CNHをグルコース、リン脂質ポリエチレングリコール(PLPEG)、セラミドPEG(CPEG)により被覆し、マウスに尾静脈投与して得た肝臓と脾臓(以前の研究より保存)の組織を観察した。その結果、グルコース-CNHやPLPEG-CNHの場合、リソソーム膜にはほとんど異常が認められなかった。しかし、CPEG-CNHではリソソーム膜が壊れていることが多くCPEGが分解して生じるスフィンゴシンによりリソソーム膜が壊されたと推定された。 NCの表面被覆にはPLPEGがよく使われているので、PLPEG- CNHに対して、マクロファージによる貪食を避ける最適のPLPEG量を検討した結果、PLPEG:CNH~1:1が最適であることがわかったが、細胞培養中に二次粒子生成がおこり、貪食を避けることは困難であった。より適した他の被覆剤を探し、予備実験により、バイオ応用においてはPLPEGより好ましい新規被覆材を見出した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
カーボンナノホーン(CNH)によるリソソーム障害を発端にして細胞死が起こるメカニズムとして、リソソーム膜が壊れて細胞質に流出したカテプシンがミトコンドリア膜障害を起こし、カスパーゼが活性化され細胞アポトーシスが起こることを明らかにしてきた。さらに、26年度の研究では、カスパーゼがミトコンドリアに悪影響を及ぼし、活性酸素産生を亢進させることがわかり、一連の結果をまとめて論文発表した。26年度の目標にあげた「CNH表面の分散材被覆率による影響」および「CNH被覆分子の影響」に関しては、従来、ナノカーボンバイオ応用に最適といわれていたリン脂質ポリエチレングリコールには課題が多く、マクロファージによる貪食を回避するためには必ずしも最適ではないことを見出した。成果は学会発表し、現在、論文投稿準備中である。 「リソソーム膜障害抑制と毒性低減化」を検討する前に、ナノカーボン表面被覆材が予期できない毒性を発現することがわかり、27年度に予定していた「動物体内におけるCNH起因のリソソーム膜障害と毒性の関係」を明らかにし、これに関しては、論文発表を行った。今年度予定していた「他のナノカーボンによるリソソーム膜障害と毒性低減化」及び「リソソーム膜障害以外の根源的原因」に関しては、今年度は行わず、予定を変更して、リン脂質ポリエチレングリコールより優れた分散剤を探索した。その結果、予備的実験により、細胞培養中にナノカーボンの2次粒子生成を起こさず、かつ、培養マクロファージに取り込まれにくい表面修飾剤を見出した。 以上のように、学会発表1件、招待講2件、論文発表2件、論文投稿準備中1件となり、十分な成果を得ることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
27年度に予定していた「動物体内におけるカーボンナノホーン(CNH)起因のリソソーム膜障害と毒性の関係」に関しては、26年度にすでに研究を行い、CNHの表面被覆材が予期できない毒性発現の原因であることを明らかにし、論文発表も行った。また、26年度は、従来最適とされていたリン脂質ポリエチレングリコールに比べて、被覆するとCNHの細胞培養培地での2次粒子生成が非常に少なくなるという新規表面被覆材を見出し、さらに、新規表面被覆材-CNHはマクロファージにより貪食もされにくくなるという予備実験結果もあることから、遂行を27年度に変更した「他のナノカーボンによるリソソーム膜障害と毒性低減化」及び「リソソーム膜障害以外の根源的原因」に関しては、新規表面被覆材を用いて検討する。具体的には、新規表面被覆材により表面被覆したCNHおよびカーボンナノチューブ(CNT)を作製し、新規被覆材-CNHおよび新規被覆材-CNTとマクロファージ細胞との相互作用を細胞実験と動物実験により調べる。細胞実験では、新規被覆材-CNHおよび新規被覆材-CNTを添加した培地を用いてマクロファージを培養し、新規被覆材-CNHおよび新規被覆材-CNTの貪食、リソソーム膜破壊、細胞死などを調べる。引き続き、マウス実験を行い、マウス体内での新規被覆材-CNHおよび新規被覆材-CNTの分布やその時間依存を測定し、肝臓や脾臓の組織観察を行い、新規表面被覆材-CNHあるいは新規被覆材-CNTがマクロファージ貪食を回避し、体外排出されたかどうかを明らかにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
ナノカーボンの表面を被覆することでマクロファージによる捕獲を回避できるという有望新規被覆材を本研究に新たに取り入れたため、その細胞実験による評価に時間がかかった。この時間の分だけ予定していた予備動物実験に着手するのが遅れ、その費用を27年度に使う事に計画を変更した。
|
次年度使用額の使用計画 |
ナノカーボンの表面を被覆することでマクロファージによる捕獲を回避できるという有望新規被覆材を用いた細胞実験を引き続き行い、それが終わり次第、前年度に予定していた予備動物実験に着手し、前年度から繰越金を27年度を今年度に使用する。
|