研究課題/領域番号 |
26600032
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
大柳 宏之 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 協力研究員 (00344432)
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研究分担者 |
仁谷 浩明 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 助教 (20554603)
山下 健一 独立行政法人産業技術総合研究所, その他部局等, 研究員 (90358250) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ピクセル検出器 / マイクロビーム / ナノクラスタ / 放射線還元 / DFT / XANES / 脱プロトン / 後期遷移金属 |
研究実績の概要 |
2014年度は1) 既存の100ピクセル検出器のPFビームラインへの接続ソフトの開発を行なう、2) 2015年度に予定されている20μマイクロビームを用いた反応その場観測実験の閃光実験として500μビームによる放射光誘起クラスタ成長に関する考察を行なった。 1)については汎用PC上にLabviewによる100ch SCA(CAMACモジュール)のエネルギーを走査して各チャンネルのエネルギ-分析を行なうソフトを完成した。PF-BL15Aの制御PCとLAN接続してのオンライン制御の確認を2015年度6月までに完了させ、秋からのビームタイムで実験を行なう予定。
2)では大強度放射光(ARNE1ウイグラー収束光)による還元に化学反応を組み合わせることで、ナノクラスターが安定化されることをみいだした。DFTで最適化した候補となる異なる対称性モデルから計算されたXANESスペクトルを実験と比較することにより、13個のコア原子がIh対称性を持つ構造をとること、および電荷を持つクラスタが脱プロトン化で生成したアミド配位子と多重結合で安定化する特殊な電子状態であることが判明した。放射線効果による電荷を持つナノクラスタの安定化ははじめてであり、放射光で原子を選択し局所的に還元することで、これまで困難であった後期遷移金属ナノクラスターの成長に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
先行実験において予想しない成果がもたらされた。具体的には、リガンド(アミン)が強い放射線で脱プロトンによりアミド錯体をつくることで正電荷を持つクラスター(Charged cluster)が安定化されることをみいだした。これは放射線による還元の電子供与の他にプロトン脱離により電子供与性の高いアミド配位が同時に起こることがポイントで、本来は不安定な電荷クラスターがリガンド分子で保護され安定化されることに起因する。ナノクラスターの構造は分子軌道法(DFT)によりリガンド分子と金属コア全ての原子位置を最適化し、それに対応したX線吸収スペクトル微細構造(XANES)を精度の高い計算手法(FPMS)で計算し比較することで、コア原子の対称性を決定した。これまで各国の大型放射光施設でその存在が知られ、単なる厄介者とされていた放射線還元を、本研究では反応と組み合わせることで、新しい物質創成としての応用が開けることを示した。結果はNature Publishingの2014年11月26日に掲載予定のScientific Report(電子版、オープンアクセス)に掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
500μビームを用いた放射光還元によるナノクラスタの発見で、放射光利用のその場観察とマイクロリアクタの有効性は確認できた。集光ミラーで収束した1000μビームの整形でつくられた500μビームは高フラックスビームで放射線還元には都合が良いが、マイクロ空間場の解析には20μビームの利用が必要不可欠である。
今後は20μビームの利用により局所的な空間反応場の場所依存性を調べることにより、時間軸(チャネルに沿った方向)と垂直方向の情報を得て壁との電気化学的相互作用、電子反応の局所的情報を解明する実験に取り組む。具体的には20μビームに取り付けるマイクロリアクタの設計製作(2015年度前半)およびそれを用いた局所XANES、EXAFS実験(2015年度後半)を予定している。なお実験ステーションPF-BL15Aは研究分担者(仁谷)が中心となり整備が完了している。
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備考 |
物質構造科学研究所ホームページ、ニュース、成果ページ。
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