研究課題/領域番号 |
26600037
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
笹木 敬司 北海道大学, 電子科学研究所, 教授 (00183822)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 原子間力顕微鏡 / ファノ共鳴 / 光駆動 / 超解像光イメージング |
研究実績の概要 |
カンチレバーの共鳴振動を利用したダイナミックモード原子間力顕微鏡(AFM)は、力感度が高く、生体などの軟らかな試料、吸着がある表面や液中の試料等の観測が可能であり、また、高い空間分解能で高精度な計測を実現できるので、生命科学や有機材料科学など様々な分野で活用されている。ダイナミックモード原子間力顕微鏡(AFM)の高分解能特性を最大限に引き出すためには、カンチレバーの振動をできるだけ抑制し、表面近傍の原子間力・分子間力を高感度に検知することが重要である。また、探針に接着した分子と試料表面の相互作用や吸着・静電気力の解析においても、探針-試料間距離の変動は小さいことが要求される。本研究では、カンチレバーを共鳴振動周波数で光駆動したときに探針が静止する無振動ダイナミックモードAFMを世界に先駆けて開発している。本システムは、強度変調した集光レーザーをカンチレバーの特定の位置に照射して複数の振動モードを熱的に励振し、広帯域振動モードと狭帯域共鳴振動モードの打消し合い干渉により振動が完全に抑制されるファノ共鳴現象を利用した新奇なアイデアに基づくAFMである。共鳴ピークで振動振幅をゼロに制御する零位法であるため、力感度・空間分解能を大幅に向上することができる。本AFMを散乱型近接場光学顕微鏡に応用して、シングルナノメートルスケールの構造を持つ局在プラズモン場の高感度・高分解能計測の実現を目指して研究を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
開発した光駆動ファノ共鳴ダイナミックモードAFMに全反射照明光学系および高感度散乱光検出系を導入した散乱型近接場光学顕微鏡システムを試作した。本システムは、試料が形成する近接場光(局在光)をAFM探針により散乱させて検出し、シングルナノメートルの分解能で形状像と近接場光学像を同時に計測する。また、白色光照明と分光検出系を組み込むことにより、ナノスポットにおけるスペクトル観測も可能とした。これらの高精度・高分解能計測は、無振動ダイナミックモードによって初めて実現することができた。また、遷移双極子モーメントの大きい分子集合体(J会合体等)を金ナノギャップ構造体に修飾して、ギャップ中の分子集合体の発光・ラマン散乱分光分析を行い、局在プラズモン場と分子集合体の強結合プロセスを明らかにした。さらに、光駆動ダイナミックモードAFMの特徴を活かして、液中のナノイメージングを試みる。金ナノギャップ構造体に色素分子や量子ドットを分散した溶液を滴下し、局在プラズモンの放射圧による分子・ナノ粒子の構造形成をシングルナノメートル分解能で解析した。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、開発した光駆動ファノ共鳴ダイナミックモードAFMの高空間分解能化を目指し、電子線描画装置を用いたリソグラフィー技術により作製した金ナノギャップ構造体を用いてギャップにおけるプラズモン場をナノスケールでイメージングし、性能を評価した上で電場の増強度や局在特性、高次プラズモンモードの空間分布等を定量的に解析する。また、関連する研究者との議論を深め、光駆動ファノ共鳴ダイナミックモードAFMの将来像、特に、ナノ空間における新奇な光物理・光化学現象の研究や局在プラズモン研究、更には光機能デバイスや光エネルギー変換システム研究への展開について検討し、我々の構想をまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では、当研究室において開発した散乱型近接場顕微鏡を流用し、光駆動ファノ共鳴を用いたAFMの高空間分解能化を検証する予定であった。しかし、平成27年12月にAFMの制御装置が故障し、販売元の会社変更等に伴い、装置の修理が難航しており、少なくとも年度一杯の期間が必要となる見通しとなった。この装置は本課題の根幹をなす装置であるため、修理に伴う実験中断に伴い、研究期間の延長を希望するものである。
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次年度使用額の使用計画 |
AFMの制御装置の修理完了後、当研究室において開発した散乱型近接場顕微鏡を流用し、光駆動ファノ共鳴を用いたAFMの高空間分解能化を検証する予定である。
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