ダイナミックモード原子間力顕微鏡(AFM)の高分解能特性を最大限に引き出すためには、カンチレバーの振動をできるだけ抑制し、表面近傍の原子間力・分子間力を高感度に検知することが重要である。本研究では、カンチレバーを共鳴振動周波数で光駆動したときに探針が静止する無振動ダイナミックモードAFMを新規に考案した。本システムは、強度変調した集光レーザーをカンチレバーの特定の位置に照射して複数の振動モードを熱的に励振し、広帯域振動モードと狭帯域共鳴振動モードの打消し合い干渉により振動が完全に抑制されるファノ共鳴現象を利用した新奇なアイデアに基づくAFMである。共鳴ピークで振動振幅をゼロに制御する零位法であるため、力感度・空間分解能を大幅に向上することができる。 具体的には、AFMと光学顕微鏡を組み合わせたシステムに、正弦波電圧で強度変調した半導体レーザーをカンチレバーに集光する光学系を導入し、設計に基づいて光駆動ファノ共鳴ダイナミックモードAFMを構築した。光強度変調周波数を掃引しながら、光テコで探針先端の振動振幅・位相を検出してファノ共鳴振動スペクトルを観測し、データをフィードバックしながら実験システムの最適化を行った。無振動ダイナミックモードAFMの制御系としては、まず、光強度変調周波数を共鳴ピークに設定し、カンチレバー上で集光スポットを走査して探針先端の振動振幅がゼロになる位置に調整する。この状態で探針を試料に近づけて微弱な原子間力・分子間力を作用させると探針先端が振動をはじめる。次に、共鳴周波数から極僅かに離調した状態で振動振幅がゼロまたは位相がπ/2になるように探針・試料間距離をピエゾアクチュエータでコントロールしながら表面形状を観測する。標準試料を用いて力感度や空間分解能等の性能を評価しており、金属ナノ構造体や生体試料の高分解形状イメージングを実現することができる。
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