研究課題/領域番号 |
26600044
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
小林 慶裕 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30393739)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | グラフェン / 酸化グラフェン / 太陽炉 / 超高温処理 / 欠陥修復 |
研究実績の概要 |
平成26年度は、太陽炉を用いた超高温処理系を整備し、基本的な装置パラメータの掌握を進めた。グラファイトの化学剥離で得られる酸化グラフェン(GO)不活性・減圧雰囲気で超高温処理し、構造修復に対する超高温処理の有効性を検証した。さらに、2年目に計画していた反応性雰囲気での超高温処理へと進捗させた。 (1)小型太陽炉によるグラフェン超高温処理システムの構築:太陽炉及びガス導入・排気系の設計・構築に関して、H25年度に実施した予備検討の経験を踏まえ、より安定した処理が可能なシステムを構築した。特に太陽炉について、太陽の高度・方位変化に伴う集光系の追尾を高精度に行える装置を新たに導入した。これにより長時間プロセスでの安定性が著しく向上した。 (2)不活性雰囲気でのグラフェン超高温処理の検討:小型太陽炉超高温処理システムを用いて、不活性ガス(窒素、アルゴン)や真空雰囲気でGOを処理し、構造に及ぼす効果を検証した。予備検討で使用したサファイアやジルコニアなどの高融点酸化物基板は超高温でグラフェンと反応することが判明したため、基板にはグラファイトを使用した。その結果、高温かつ低圧力の場合にGOの還元・構造修復が進行し、より結晶性の高いグラフェンが形成することを見出した。特に圧力依存性について、430Paまでの範囲では雰囲気ガス中の不純物による超高温での欠陥形成によることを明らかにした。今後、より高純度・低圧力でのプロセスにより、結晶性がさらに向上することが期待される。 (3)反応性雰囲気でのグラフェン超高温プロセスの検討:不活性雰囲気に加えて、超高温でアルコールを導入した反応性雰囲気でGOを処理する研究へと進捗させた。不活性雰囲気と比較して、200℃程度低い温度で同等の構造修復が進行し、1800℃においては結晶性の指標であるI(G)/I(D)比が12程度にまで向上することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
交付申請書では、今年度に(1)小型太陽炉によるグラフェン超高温処理システムの構築、(2)不活性雰囲気でのグラフェン超高温処理の検討、および(3)グラフェン薄膜性能解析、の3項目を実施するとしていた。 (1)については、計画通りに進捗し、新たなガス導入系・排気系構築や位置制御性を高めた太陽炉システムの新規導入を実施した。さらに、実験の過程において、基板とグラフェンとの超高温での反応という新たな課題が顕在化したが、その問題を解決することができた。 (2)についても、計画通りに進捗した。上記の実績概要では触れていないが、共同研究先である若狭湾エネルギーセンターに設置された大型太陽炉での実験も実施し、小型炉よりも高い2000℃での処理に成功している。ただし、結晶性向上には減圧条件が必要となるため、今後処理環境の整備が必要となっている。 (3)については、ラマン分光による構造解析は計画通りに実施し、その結果を処理プロセスにフィードバックした。電気物性測定については、(1)で述べたように絶縁物基板との反応という問題が判明したため、水晶基板によるデバイス評価に着手している。 さらに、不活性雰囲気での検討が計画よりも早く進捗したため、2年目に予定していた反応性雰囲気での検討にも着手した。 以上のように、当初計画を予定通りに進捗させるとともに、2年目に予定していた項目の一部を前倒しして実施しており、計画以上に進捗したと評価する。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究は順調に進捗しており、そこで得られた成果を基にして、目的の達成に向けて研究をさらに推し進める。初年度に着手した2年目に予定の研究項目について積極的に進めていくとともに、超高温処理したグラフェン物性評価を効率よく進めるために、新たに電気炉による処理系の構築をおこなう。 反応性雰囲気でのグラフェン超高温プロセスの検証については、アルコール分圧や処理時間・温度依存性を詳細に解析し、超高温・反応性雰囲気での酸化グラフェン構造修復のメカニズム解明を目指す。特にカイネティクス解析による反応速度の定量化に重点をおく。 グラフェン薄膜性能解析については、ラマン分光による構造解析はこれまで通りに進めていく。それに加えて、絶縁物基板として水晶を用いて、水晶基板上のGO薄膜を従来法(上限1100℃)よりも高い1500℃程度で処理した場合の電気物性評価を進めていく。多くのデバイス作製が必要となるため、新たに1600℃まで加熱可能な電気炉を導入し、測定効率を向上させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
導入を予定していた真空排気系について、別途調達して実験を進めることができた。また反応炉の改造よりも、太陽位置追尾精度の向上がプロセスの安定化に重要であることが判明したため、太陽炉を新規に設計・構築することにした。その差額および平成26年度内に実施を計画していた海外での成果発表をより成果アピールに効果的なMRS(平成27年4月、アメリカ)で行うことにしたため、平成27年度に繰り越す研究費が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
国際会議(MRS)で研究成果を発表する費用とする。それとともに、超高温処理したグラフェンの物性解析を効率よく進めるための小型電気炉の導入費用に充当し、本研究課題による成果のインパクトをより高めることを目指す。
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