平成27年度(本研究課題2年目)では、1年目における成果を踏まえて、本研究課題の主眼であるエタノールを含む反応性雰囲気での酸化グラフェン超高温処理による効果を詳細に検討した。 (1)反応性雰囲気でのグラフェン超高温プロセスの検証:超高温を得るための手段として、1年目に整備した太陽炉に加えて、電気炉(昇温上限温度:1600℃)の整備をおこなった。これにより、天候に左右されず幅広い条件での超高温処理実験の遂行や、項目(2)で述べるX線回折測定に必要な試料量の確保が可能となった。試料周辺の局所加熱である太陽炉とhot wall型の電気炉では気相中での熱分解過程が異なるはずであるが、温度が同じ場合の酸化グラフェン構造修復の進行は両者で同程度であることを見出した。これから、超高温でのエタノールの熱分解反応が極めて短時間のうちに進行し、定常的な処理雰囲気が形成されることが判明した。 (2)グラフェン薄膜構造解析:超高温処理で得られたグラフェン積層膜の詳細な構造解析をラマン分光法とX線回折法で詳細に進めた。エタノール中で最適化した条件で処理した酸化グラフェンから得られたラマンスペクトルでは、Dバンド/Gバンド強度比が0.1、2Dバンド/Gバンド強度比が0.7が観測された。これは、本課題での目標をほぼ達成し、金属触媒上でCVD成長したグラフェン薄膜に匹敵する性能が得られたことを示す。2Dバンド形状の解析から、エタノール雰囲気処理では乱層構造が保持されるという新規な現象を発見した。ただし、X線回折法による構造解析との対比から、この現象は酸化グラフェン薄膜の表面近傍のみで進行し、残りの大部分は不活性雰囲気と同様にグラファイト化(AB積層構造)していることがわかった。以上の結果から、酸化グラフェンから単層グラフェンに類似した物性が期待される乱層構造積層膜を作製するための指針が明らかとなった。
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