研究課題/領域番号 |
26600049
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研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
深田 直樹 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, その他 (90302207)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | シリコン / 結晶成長 / 太陽電池 / ナノワイヤ |
研究実績の概要 |
本研究では、Siナノワイヤからなる新しい太陽電池材料をSiではない異種基板上、例えば安価なガラス基板上に形成することを目的としている。 研究初年度は、Al誘起層交換法を利用し、石英ガラス基板上へのSi結晶膜の形成実験を行った。Al誘起層交換法に関してはこれまでいくつかの報告例があるため、その条件を参考に行った。まず石英ガラス基板上にAlをスパッタリングにより堆積し、その後Siを堆積する。膜厚はともに50-100nmの範囲で変化させた。次に、400-600℃の範囲で層交換のためのアニールを行い、膜厚比、アニール温度、アニール時間に対する結晶化の条件を透過電子顕微鏡(TEM)観察、電子後方散乱(EBSD)測定およびラマン分光測定により調べた。電子線後方散乱(EBSD)測定を詳細に行った結果、Al100nm/Si100nmを425℃で100時間AIC行った場合には(111)配向のSi多結晶薄膜が形成されていることを明らかにできた。一方、Al200nm/Si200nmを500℃で30時間AIC行った場合には(100)方向に優先配向したSi結晶薄膜を得ることができた。ラマン分光測定の結果からは、約519cm-1の位置にSi光学フォノンピークを観測できた。バルクのSi結晶の光学フォノンピークは約520 cm-1の位置に観測されることから、低波数シフトの原因として、石英ガラス基板による引張応力および多結晶化に起因する閉じ込め効果が考えられる。 AICのみでは、石英ガラス基板上に形成できるSi多結晶膜の厚みは200-300nm程度であり、その膜をナノワイヤ化するには十分ではない。そこで、スパッタによりAIC形成p+-Si結晶薄膜上へのアモルファスSi膜の形成を行い、固相エピタキシャル成長による結晶化を行った。その結果、石英ガラス基板上に1μm程度の結晶膜を得るところまで成功している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に記載したように、現在までにAl誘起層交換法を利用して石英ガラス基板上へのSi多結晶膜の形成を達成できている。また、AICの条件により、形成されるSi結晶膜の方位、結晶中の粒径を制御できている。更に、スパッタ法を利用して、AICで形成したSi多結晶膜上へのアモルファスSi膜を形成し、その後の固相エピタキシャル成長を利用することで、石英ガラス基板上に1μm程度の結晶膜を得ている。固相エピタキシャル成長後に最終的に得られる結晶膜の平坦性に関しては若干の問題があるため、研究最終年度に改善が必要と考えている。 一方、ナノインプリントを利用したナノワイヤ形成に関しては、石英製モールドの作製および試験用Si基板上へのパターン形成およびその後のドライエッチングによるナノワイヤ化までは実施できている。石英製モールドのパターンとしては配列の異なる5種類を準備できた。若干、パターンの種類によっては最終的に得られるパターンの均一性に問題があった。この問題に関しては現在、ナノインプリント時のプロセスの最適化を行っており、間もなく解決される見通しとなっている。 以上のようにして、研究計画書に記載した初年度の計画はほぼクリアできたといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画としては、まずはナノインプリント時のプロセスの最適化を行い、均一パターンの形成技術を確立する。ドライエッチングにより形成したナノワイヤの先端は先鋭ではない。また、エッチング後の表面は荒れており、良好な界面形成の妨げになる。そこで、希フッ酸と過酸化水素によるエッチングを行い、先端先鋭化と表面平滑化を同時に行う。その後、CVDの超高真空チャンバ内でp型Siナノワイヤの周りにn型Si結晶膜を形成する。変換効率は、シェル/コア界面の状態、シェル層の結晶性と厚み、及びリン(P)濃度等に依存する。最も重要な界面の状態に関しては、まずはX線光電子分光(XPS)により酸化が進行していないことを確かめる。酸化が生じている場合は、シェル層形成前の酸化膜除去と水素化プロセスの改善を徹底的に行う。その上で、TEMによる構造観察と電子スピン共鳴(ESR)による欠陥評価を行う。シェル層の結晶性は、TEMおよびラマン分光により詳細に調べる。シェル層内の電気的に活性なP濃度に関しては、ESRで観測される伝導電子シグナルの解析から評価し、シェル層への位置制御ドーピングを実証する。 ナノワイヤ上面にはスパッタリング法を利用して櫛形の銀電極を形成し、セルを形成する。太陽電池特性の結果を詳細に解析し、変換効率向上の妨げになっている因子を洗い出し、それを改善することで変換効率の向上につなげる。以上により、Siナノワイヤの特性を最大限に引き出せる構造を有し、特殊なコアシェル構造からなる新しい高効率太陽電池セルのガラス基板上への形成を実現する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究に必要な物品費(薬品、ガラス材等の消耗品)の購入価格を安く抑えることができたため、当初の計画より43,182円を次年度に繰り越すことにした。
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次年度使用額の使用計画 |
繰越金に関しては、次年度においても研究遂行に必要な薬品、ガラス材等の消耗品の購入に充てる予定である。
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