研究課題/領域番号 |
26600057
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
伊野 浩介 東北大学, 環境科学研究科, 助教 (00509739)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 電気化学イメージング / バイオMEMS / 細胞解析 / 集積化センサ / 微小電極アレイ |
研究実績の概要 |
本年度は、まず始めにLSI型電気化学イメージングデバイスの作製法を検討した。これまでは、ウエハから切り出したチップの表面を加工し、コネクタパッドが配置された基板に接続することで、デバイスを作製していた。この方法では、チップを1枚ずつ表面加工する必要があり、単位時間あたりに作製できるデバイスの数が非常に少なかった。この問題を解決するために、チップを切り出す前のウエハ(1枚のウエハに40個のチップが配置されている)の表面加工を行うことで、表面加工の工程を短縮させてデバイスの生産性を向上させることに成功した。新しい作製法によるデバイスの基本特性を評価したところ、従来と同様に機能することが確認できたため、この手法によりデバイスを作製することに決定した。 さらに本年度は、測定対象物の2次元的、3次元的な位置と得られる電流シグナルの関係性を解析した。具体的には、導電性材料や絶縁性材料、細胞塊を用いた実験と数値シミュレーションを行った。導電性材料や絶縁性材料では、電気化学計測におけるポジティブフィードバック・ネガティブフィードモードを用いて電気化学計測を行った。細胞塊においては、酵素活性や呼吸量を指標にした電気化学計測を行った。これらは動体解析に向けた予備検討である。この結果、電気化学イメージングデバイスにおける測定対象物の距離と得られる電流値の関係性を明らかにした。 得られた成果は細胞動体解析に向けた第一歩であり、対流から得られるシグナル解析において数値シミュレーションが有用であることを示した。 また、今回開発したLSI型電気化学イメージングデバイスは、導電性評価やトポロジー評価に応用できることを示した。さらに細胞塊の機能評価への可能性を示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はデバイスの生産性を飛躍的に向上させることに成功した。これにより、2~4倍程度の生産性の向上を達成した。また、今回の手法により作製したデバイスが機能することも確認できた。したがって、デバイスの安定的な供給による効率的な研究が今後は期待できる。 本研究では対象物による対流の電気化学イメージングを目的としているが、そのためには、対象物とセンサとの距離に関する知見が重要になる。本年度はこの関係性を明らかにしており、その点で研究が進歩している。これらの研究成果は、2報の学術論(査読有)への掲載が決定している。また、開発したLSI型電気化学イメージングデバイスと、これと平行して開発している分子電気化学スイッチング素子型イメージングデバイスに関して2件の学術賞を受賞しており、本研究が国内だけでなく国際的にも注目を集めた研究であると言える。 本研究で開発した電気化学イメージングデバイスの応用として、材料表面の導電性評価やトポロジー評価を新たに提示することに成功しており、電気化学イメージングの可能性を拡大させたと言える。また、呼吸量評価や酵素活性評価による細胞塊の品質評価への可能性を示唆することで、組織工学への応用を示した。この他に、細胞塊からの分泌物質の電気化学イメージングに成功しており、最終年度における細胞動体解析の同時計測のための予備検討を終えた。細胞分泌物質の電気化学イメージングに関しては、現在、学術論文(査読有)を投稿中である。 現段階では、対流の電気化学イメージングに関してはプレリミナリーな結果しか出ていないが、上記した研究成果を考慮すれば、研究自体は十分に進んでおり、最終年度では研究計画で述べている研究成果を得られると考えられる。 以上のことから、本研究はおおむね順調に進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでにデバイス作製法の検討、デバイス特性の基本評価を終えた。最終年度は、細胞動体の解析を実施して、本研究を完成させる。具体的には、ミジンコや線虫といった微小生物の評価を行い、電流データを解析する。ミジンコに関しては、予備的なデータは得られているため、まずこのデータを解析する。続いて、心筋細胞などの動物細胞の動体解析を行い、分化などの細胞機能や品質評価を行う。 心筋細胞はアクチュエーターとしての応用が検討されているが、動力としての検討を電気化学イメージングから行う。特に前年度で検討した測定対象物の距離に関する知見を活かして、検討を行う。 細胞塊の呼吸量の計測は初年度で成功しており、最終年度では呼吸計測と動体解析の同時計測を実施する。これは、モデル細胞である筋肉細胞スフェロイドを用いて実施する。また、細胞分泌物質と細胞動体の同時電気化学イメージングを実施する。実験系として、神経細胞と筋肉細胞の共培養を予定しているが、研究進捗を見極めて、細胞腫を変更する。 局所刺激に対する細胞の動体解析を行う。局所的に化学物質を生成、消費させることは初年度で成功しており、最終年度では局所刺激に対する細胞挙動を観察する。 様々な細胞種や条件で実験を行い、知見やデータを蓄積する。これによりデータの信頼性を確保するともに、細胞機能に関する新たな知見を獲得する。 これらの検討により、本研究で提案する細胞動体解析に向けた新規電気化学測定法を完成させる。
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