研究課題/領域番号 |
26600059
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
高村 禅 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授 (20290877)
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研究分担者 |
浮田 芳昭 山梨大学, 総合研究部, 助教 (40578100)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 質量分析 / タンパク質のイオン化 / MALDI / TOF / 熱パルスイオン化 / マイクロデバイス |
研究実績の概要 |
これまでの研究で、熱パルスイオン化によりたんぱく等の生体分子を従来のUV-MALDIを凌駕する効率でイオン化可能なこと、試料の塗布状態が重要であること、負イオンと正イオンが生成していること等がわかった。また、単に質量分析機のチップ化にとどまらず、従来の大型の質量分析器のイオン源として用いても、ユニークで大きなメリットがあることがわかってきた。そこで、H28年度は、熱パルスイオン化の特性をさらによく調べ、従来のイオン源にない特性、凌駕する特性を顕在化させ、より大きなインパクトを目指した。具体的な成果を列挙する。 1.熱パルスイオン化の特性およびイオン生成機構の解明: (1)試料塗布方法の改良。塗布前のヒータ表面を酸素プラズマ処理することにより、塗布サンプルの濡れ性、均一性が非常に良くなり、より薄い膜の塗布が可能となった。これにより、質量スペクトルの再現性、および品質が大幅に改善した。(2)正負イオンスペクトルの測定とメカニズム解明:無機物、マトリックスに含有した生体分子、生体分子単体のマススペクトルを、正イオン、負イオンに分けて取得した。その結果、イオン化の正負は原子または分子の種類により決まることが分かった。これは電子のアフィニティーに基づくイオン化を示唆している。またマトリックスは必ずしも必要ないことが分かった。 2.低分子およびマトリックスフリーの質量分析: マトリックスフリーでもイオン化できることにより、低分子量生体分子の質量分析が可能になる。従来のMALDIが苦手であった、糖の分析に応用し非常に良い結果を得た。 3.チップ化可能な検出器の開発と、マイクロ流路内における質量分析: 本研究で明らかになった熱パルスイオン化の効率および性質は非常によいものであったため、チップ化よりも、イオン化そのもの解明、実証性の検証が、より急務と考え、本項目は来年度以降の実施とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究項目の1つ目は(1)熱パルスによるイオン生成機構の解明に関して、熱パルスイオン化のメカニズムにアプローチすることであるが、本年度は決定的な成果として、マトリックスがなくてもタンパク質などのの生体分子がイオン化できることが分かった。これは、本法が従来のマトリックスのアシストを前提とするイオンメカニズム根本的に異なることを意味している。従来のMALDIでは、マトリックス由来の大きなバックグラウンドが低分子側に存在し、特に糖等の低分子量生体分子の分析の大きな障害になっていた。マトリクスの代わりに微細な構造体を用いる報告が幾つかあるが、イオン化の効率や、品質で問題があった。本法は、マトリックスフリーで高効率に、フラグメンテーションや多価イオンがない、イオン化が可能であることが分かってきた。本研究の目的である質量分析器のチップ化を超えて、従来の質量分析器の性能を大きく改善する可能性も持った状況である。これは当初の予想をはるかに超えた成果と考える。 一方で、本年度は、上記の研究に集中したため、2つ目の研究課題である、(2)低真空および微小領域におけるイオン電流増幅法の開発に関しては、次年度以降に先送りした。よって総合的な評価は、おおむね順調に推移しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画では本年度が最終年度であったが、延長がみとめられたため、今後も熱パルスイオン化の研究に重点を置き、またチップ化に関する研究も行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
これまでの研究で、熱パルスイオン化の効率が従来のUV-MALDIをはるかに凌駕する可能性が示された。これは、チップ化にとどまらず、従来の大型質量分析器の性能も大きく改善できることを意味する。そのため熱パルスイオン化単体の実用化につながる研究が急務と判断し、様々なサンプルに対する特性をより緻密に調べている。このため、チップ化可能なイオン検出器の開発はH29年度に実施する。
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次年度使用額の使用計画 |
熱パルスイオン化の効率が非常に良く、早期の実証、実用化が望まれるため、熱パルスイオン化の研究に重点を置いて進めている。そのため後回しになっていた、チップ化可能なイオン検出器、チップ内での質量分析に関して、重要とおもわれる項目に絞って、次年度に実施する。
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