研究実績の概要 |
代表的な強磁性半導体である(Ga,Mn)Asの磁気特性向上に向けて、ドナーを同時添加(ドーピング)した(Ga,Mn)Asの作製を行った。 磁性元素Mn間の相互作用をキャリアである正孔が媒介することにより、(Ga,Mn)Asの強磁性秩序は発現する。強磁性秩序に寄与する格子位置Mn組成と正孔濃度の増加により、その磁気特性の向上が期待される。しかし、(Ga,Mn)As中に大量のMnを導入しようとすると、一部のMnは格子間位置に入るようになる。格子間Mnは格子位置Mnと反強磁性的に結合すること及びドナーとして働くことから、格子間Mnの形成を抑制して格子位置へのMnの固溶度を増やす必要がある。これに対する有効な手法として非磁性ドナーの共添加が理論計算により提案されていたが、実験的な検証はなかった。 本研究では、非磁性ドナー元素としてLiを採用し、Liを共添加した(Ga,Mn)Asの結晶成長を分子線エピタキシ法により行った。1%以上のLiを共添加することにより、(Ga,Mn)As中でのMnの固溶度が増加することを明らかにした。Mnを15%、Liを1%添加した(Ga,Mn)As:Liにおいて、(Ga,Mn)Asに対してはこれまでの最高値である140 mTの磁化を観測し、このことから大部分のMnは格子位置を置換していることを明らかにした。一方で、熱処理後のキュリー温度はLiを含まない(Ga,Mn)Asのものと大差なく、これはLiを熱処理により除去できないことを示唆している。 (Ga,Mn)As:Liをチャネルとした電界効果素子を作製し、(Ga,Mn)As:Liの磁気特性の電界変調から、(Ga,Mn)As:Liの強磁性はキャリア誘起によることを示した。更に、(Ga,Mn)As:Liは顕著な面内磁気異方性を示し、異方性の方向が温度に依存するという物理的に興味深い現象を観測した。
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