研究課題/領域番号 |
26600075
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
寺西 亮 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70415941)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 超伝導体 / イットリウム系 / 薄膜 / インクジェット / 溶液塗布法 / 任意形状 |
研究実績の概要 |
本研究では、カラープリンターの印刷技術をYBa2Cu3Oy(YBCO)超伝導薄膜中への磁束ピン止点の導入法として応用し、ピン止点の配列導入に挑戦する。申請者は膜中でピン止点を任意に配置させる手法として現代プリンターの高度なカラー印刷技術に着目した。超伝導及びピン止点の原料溶液をプリンターに設置し、パソコン上で塗布形状・配置・塗布量を決定することによってピン止点を膜中に自由に導入(形状・配置・大きさ・数密度等)することができれば、薄膜組織を自由に制御できる技術が実現する。本年度は、まず同法により超伝導膜を作製する基本動作を実行し、課題抽出と対策の検討を行った。 成膜には汎用のインクジェットプリンターを用いた。薄膜の原料溶液をプリンターのインクカートリッジに充填してプリンターにセットし、基板を貼り付けた印刷用紙をプリンターに配備した。塗布形状は、パソコンの描画ソフト上にて描き、印字することで基板に原料溶液を塗布した。得られた塗布膜は酸素雰囲気中で約400℃にて仮焼し、その後、約800℃にて本焼して結晶化して、YBCO膜を得た。 本年度実施した主な項目と得られた知見を以下にまとめる。 (1)形状制御:任意形状の塗布膜が得られ、塗布膜の適切な熱処理によってYBCO超伝導膜が作製できることがわかった。(2)厚膜化:1回塗布厚が大きい場合には結晶化後の膜の結晶配向が低下する。その対策としては、1回塗布厚を低減して塗布回数を増加させる厚膜化手法が効果的であることが示された。(3)連続塗布:市販プリンターでの成膜ではノズル目詰まりが発生する。対策としては、塗布環境の改善(溶液の揮発性制御やノズル材質改善等)が必要である。(4)膜の結晶化過程の考察:膜の組織観察結果を基にしたYBCOの成長過程を考察し、c軸粒の中にa軸粒が生成する機構及びa軸粒成長の抑制法を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
市販のプリンターを用いて成膜実験を行う中で、インクの目詰まりの問題などいくつかの検討課題が生じたが、それらに有効な対策(ノズルの洗浄や溶液の揮発性制御など)が見出された以降は、ある程度予定通りに実験が進んだ。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、超伝導体の材料に加えてピン止点の材料もインクカートリッジに充填し、超伝導膜中にピン止点を配列塗布して成膜する。その後、ピン止点の配列塗布を3次元的に積み上げることも検討し、ピン止点を立体的に配列導入することを試みる。 また、ピン止点を導入した膜の微細組織観察などを行い、膜の成長過程について考察を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
H26年度は、インクジェット成膜実験を行うための器具(パソコン、プリンター)として既存の物品を代用したことから、当初の予算計画に対して消耗品の面で使用額に差が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
H26年度の経過から、成膜実験を効果的に進めるために実験環境を再度整えるために予算を使用する。具体的には成膜実験用のパソコンとプリンターを新調し、プリンターについてはインク目詰まりを起こしにくい仕様を有するプリンターを検討する。また、成膜用の基板についても実験の進捗に合わせて準備するほか、原料の揮発性制御の必要性に応じて、場合によっては有機原料合成/調整用の物品の購入も検討する。
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