(全体概要)本研究では、超伝導薄膜中に磁束ピン止め点を導入する手法として、インクジェットプリンター(以降プリンターと表記)のカラー印刷技術に着目し、これを応用して配列導入することに挑戦した。超伝導体およびピン止め点の原料溶液をプリンターに充填し、パソコン上で塗布形状・配置・配布量を決定して基板上に塗布することで、ピン止め点を配置した超伝導膜の作製を試みた。 (初年度)母相であるYBa2Cu3Oy(以降YBCO)の作製を行い、プリンター塗布の基本動作の習得と課題抽出およびその対策を検討した。「形状制御」について、任意の形状で塗布膜が得られ、適切な熱処理によってYBCO膜が作製できた。「塗布量」について、塗布量(塗布膜厚)が大きい場合には結晶化後の膜の結晶方位が乱れ、熱処理条件に適した塗布量が存在することが分かった。「連続塗布」について、市販プリンターではノズルが途中で目詰まりし、塗布環境の改善(溶液の揮発性制御やノズル材質の改良など)が必要であることが示された。「YBCO膜の結晶化過程」について、熱処理途中の膜の微細組織観察結果やX線回折による解析から、熱処理条件に適した塗布厚でない場合はc軸粒の中にa軸粒が生成することが分かり、塗布膜厚に適した熱処理条件が必要であることが分かった。 (2年目)YBCO膜へのBaHfO3(以降BHO)磁束ピン止め点の配列導入を行った。光学顕微鏡観察から、パソコン上での細線デザインと同様にピン止め原料を塗布できたが、線状ではなく点状で塗布されることが分かった。その理由として、基板に対して溶液の濡れ性が良くないことが考えられる。また細線幅を比較すると、塗布直後では100~150 μm 、本焼後では50~100 μmとなり、熱処理過程で原料の溶媒が蒸発し体積が小さくなることが分かった。以上より、ピン止め点の塗布形状の品質に課題はあるが、本手法によってYBCO膜にBHOをマクロ的に配列導入できることが示された。
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