高分解能電子顕微鏡法の可能性を有機結晶へ広げることは、近年の有機デバイス等の評価手法として非常に重要な役割を果たす。一方で、有機分子結晶は電子線に非常に弱く、実験的に観察すること自体が困難であるのが現状であり、本研究ではこれを上手く克服した手法開発を基礎的な観点から開拓することで、有機材料評価法の幅を広げることを目的としている。
本年度は、昨年度調査したADF-STEM像コントラストの円環検出角度依存性についてより詳細に定量的な研究を行った。特に、2種類の原子像間のコントラストが最大になる実験的条件とその物理的理由に関しての調査を行った。その結果、有機・無機結晶や2次元結晶などの系についての像コントラストと最適検出角の関係性を見出した。この結果は、当初像コントラストの主要な要因とこれまで考えていたものとは異なるものであり、今後ADF-STEM法を用いて高分解能原子像を観察していくうえで非常に基礎的な知見を得ることができた。この研究結果については、29年度に国内顕微鏡学会において報告予定している。また国際誌への論文投稿の準備を進めている。
また、ハロゲン化されたフタロシアニンを用いて高速スキャン像を積算するマルチフレーム法による電子線損傷提言の可能性についても実験と検討を行った。 さらに塩素化されたコロネン分子を合成し結晶化させたものや、他のフタロシアニンに代表されるこれまでTEMで観察されたことのある有機分子結晶薄膜についても高分解能ADF-STEM法の適応を行った。コロネン分子についてはある程度の高分解能像を観察できる可能性を見出す結果を得た。
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