研究課題
強誘電体の相転移温度を,X線回折実験で得られる結晶構造に関する情報だけから純粋に類推する指標を見出すために,放射光粉末回折実験により,ペロブスカイト型酸化物を中心に様々なセラミックス材料の「価電子」の空間分布を全電子密度分布から抽出して,博物学的に可視化する研究を開始した.構造歪みを誘起すると考えられているフェロアクティブイオンの価電子密度分布に注目して,相転移温度を支配している化学結合の特徴を見出し,電子論の観点から誘電体の相転移を議論する新しい相転移論構築のための実験研究基盤を確立することが研究の目的である.初年度では,化学式がABO3と書ける古典的なペロブスカイト型強誘電体に対して,TiやNbなどのフェロアクティブなBサイトイオンにまず注目し,プロトタイプ構造における価電子密度分布などを調べた.その結果,予想していた通り,B-O原子間の共有結合性の高いものほど相転移温度が高いという直接証拠を得ることができた.最終年度である今年度は,Pb,Bi,Snなどの孤立電子対をもつイオンがペロブスカイト型構造のAサイトに配置した場合の結晶構造を価電子密度レベルで解析することを中心に行った. このようなイオンもA-O間の共有結合形成により強的な構造歪みを誘起すると考えられている.SPring-8において高エネルギー放射光を用いた粉末X線回折実験を行い,得られた回折パターンを最大エントロピー法でデータ解析し,価電子密度分布を抽出した.その結果,例えば,PbTiO3のPbとBiFeO3のBiでは,同様の孤立電子対が存在すると考えられてきたが,その空間分布は明らかに異なることが分かった.このような孤立電子対をもつイオンを含む他の材料の構造解析も開始できた.フェロアクティブなイオンの電子の空間分布を構造相転移の起源に関連付けて議論する物性研究の基盤が構築できたと考える.
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (17件) (うち国際学会 3件、 招待講演 4件)
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