研究課題/領域番号 |
26600091
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
福村 知昭 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (90333880)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | エピタキシャル / 物性実験 / 電子・電気材料 |
研究実績の概要 |
Y2O2BiはBiが-2価という異常原子価をもち正方格子を形成している層状物質である。2011年に粉末多結晶の合成が報告されたが、我々は還元性固相エピタキシーを開発し、初めてエピタキシャル薄膜を得ることに成功した。Y2O2Biと格子整合のよいCaF2基板上に成長したY2O3アモルファス薄膜でBiとY粉末を挟み込んで、2段階焼成を行うことにより、固相エピタキシーでc軸配向のエピタキシャル薄膜が成長した。最初の低温焼成でYとBiの合金が形成され、続く高温焼成でその合金とY2O3薄膜が固相反応したものと考えられる。この結果をCrystal Growth & Design誌にCommunication論文として発表した。しかしながら、この手法ではできあがった薄膜表面に粉末の残渣があり、物性測定に不適であったため、あらたにBi、Y、Y2O3の各層からなる多層膜をスパッタ法で形成したあと、超高真空中で焼成する第二世代の還元性固相エピタキシー法を開発した。その結果、前述の手法よりも著しく結晶性が向上し、表面も平坦なエピタキシャル薄膜を作製することに成功した。この試料を用いることにより、X線光電子分光によるBiの価数の評価や磁気伝導測定が可能となった。Bi正方格子の2次元性を反映した磁気伝導を示すことから、Y2O2Biは期待通り2次元性の電気伝導性をもつことがわかった。この内容については、論文作成中である。また、Y以外の希土類元素の物質R2O2Biのエピタキシャル薄膜作製にも取り組み、開発した還元性固相エピタキシー法がそれらの薄膜成長にも十分適用できるという予備的結果を得ている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最初に開発した第一世代の還元性固相エピタキシー法についてはアメリカ化学会の論文誌に論文発表をすることができた。また、実験を担当した博士課程の学生は、2015年の4月に行われたアメリカ材料学会のMRSシンポジウムで口頭発表に採択され、世界各国の酸化物エレクトロニクス分野の専門家に対し満足する成果発表を行うことができた。改良した第二世代の還元性固相エピタキシー法では試料の著しい結晶性の向上に成功し、その結果、この物質の諸々の物性の測定が初めて可能になった。磁気伝導測定ではBi正方格子に由来した2次元性の強い電気伝導特性や強いスピン―軌道相互作用を持つことを明らかにすることができ、Y2O2Biが興味深い物性をもつことがわかった。また、先行研究の粉末多結晶より一桁低い電気抵抗率を示すことから、結晶粒界に影響されないこの物質に固有の電気伝導が観測できていることがわかる。これらの結果はR2O2Biが新たな低次元物質として魅力的な物性を発現する可能性を示唆しており、さらに強いインパクトを与えることが期待できる。より著名な論文誌に投稿すべく、論文執筆をスタートしている。また、開発した還元性固相エピタキシー法で他のR2O2Biエピタキシャル薄膜を作製できる目途もついた。当初予定していた光電子分光による電子状態の評価は、この物質の表面が酸化されやすいことがわかり、それほど容易でないことが予想される。しかしながら、エキゾチックな物性を発掘する準備は電気伝導性や磁性の測定については十分可能である。
|
今後の研究の推進方策 |
R2O2Biのような層状物質は、各層の特異な性質を併せ持つハイブリッドな機能性物質となる可能性を秘めている。Y2O2Biでは主に電気伝導を担うBi2-単原子層に固有な物性を明らかにすることができた。次年度は他のR2O2Biエピタキシャル薄膜の作成と物性評価の推進を計画しており、Yでは観測されなかった新奇物理現象の発見を目指していく。具体的には、Dyのような磁性希土類金属を含む薄膜の作製を行い、強磁性R2O2Bi実現の可能性を検証する。また、先行研究の粉末多結晶では、Rのイオン半径の違いに起因した金属―絶縁体転移が報告されているため、Ce等のイオン半径の大きい希土類金属をもつR2O2Bi薄膜の作製を通して電気伝導性の制御も行う。加えて、Dy2O2層やCe2O2層に起因した磁性秩序とBi単原子層の電気伝導性との相互作用を諸物性の測定から明らかにし、新奇物性の発現を目指す。また、Y2O2Biに関しては、超伝導転移と見られる電気抵抗の減少が観測されており、継続した試料作製と電気伝導、磁化測定を通して超伝導現象の立証が必要である。超伝導現象の確立ができた場合、R2O2層の磁性秩序との共存を試み、エキゾチックな超伝導体の開発に着手する。困難と考えられるBiの異常な電子状態の評価についても、試料のへき開手法の確立もしくはスパッタ法等による試料表面の清純化手法を検証することで、光電子分光法測定のための足がかりを築くことを目標とする。以上のようにR2O2Biを軸とした新しい機能性層状酸化物群の開拓を推進する。
|