研究課題/領域番号 |
26600093
|
研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
田中 正俊 横浜国立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90130400)
|
研究分担者 |
関谷 隆夫 横浜国立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60211322)
大野 真也 横浜国立大学, 工学(系)研究科(研究院), 特別研究教員 (00377095)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 薄膜新材料 / Pt代替触媒 / 表面界面物性 |
研究実績の概要 |
本年度の研究計画に従って、下記の(1)-(2)を進めた。 (1) スパッタリング成膜装置の開発: リング状のターゲットの内側にマグネトロン放電を発生させて反応性スパッタリング成膜を行う装置を設計し,製作した.装置を現有の真空槽,排気装置,ガス供給系統等を用いて組み上げた当初は,真空槽内を1Pa程度の圧力に保つと成膜に必要な50sccm程度のガス流量を確保できなかったため,真空漏れ等の原因を突き止めることに大いに時間を費やした.しかし,排気ポンプを拡散ポンプから排気速度1000L/s程度のターボ分子ポンプに交換することによって漸くこの問題は解決した.そして,Zrをターゲットとし,Ar, O2,N2の混合ガスを使用して,ガラス基板及びシリコン基板上にZr酸化物及び酸窒化物を200nm程度成膜することに成功した.また,炭素微粒子表面への成膜は,炭素微粒子を超音波振動子等で跳ね上げてリング状ターゲット中央の成膜空間へ供給する方式で行なう予定であり,この方式の最適条件を別の真空槽で探索している. (2) 触媒能,膜質の評価の準備: 発光分光によりプラズマ中の励起種の分析を行い,ガラス基板上に作成された薄膜の吸収スペクトルからZrの酸化物,酸窒化物の形成を確認した.また,シリコン基板上に作成された酸化物薄膜はZrO2であることがX線回折から示された.この他,炭素微粒子―酸窒化物界面及び酸窒化物表面の組成や化学結合状態を評価するための,X線光電子分光法(XPS),オージェ電子分光法(AES)(いずれも横浜国大機器分析評価センター),表面反射分光法(SRS)の装置,ならびに触媒能を評価する三電極式電気化学測定装置が順調に動作することを,実際に操作して確認した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現有の拡散ポンプでは排気能力不足でスパッタリング成膜に必要なガス流量を確保できず,真空漏れ探査等で時間を費やして計画が遅れたが,ターボ分子ポンプに交換してからは順調に進んでいる.Taターゲットで予備実験が行えなかったのは若干の遅れかもしれないが,成膜装置は順調に稼働しているので,27年度中に所期の目標を達成することは十分可能であると考えられる.
|
今後の研究の推進方策 |
ほぼ当初の研究計画通りに下記の(1)-(2)を進める. (1) 成膜条件の最適化: まず,TaターゲットでZrと同様の予備実験を行い,ガラス基板及びシリコン基板上への酸化物,酸窒化物の成膜を確認する.次に,実際の成膜用真空槽でリング状ターゲット中央の成膜空間へ炭素微粒子を供給する方法を確立し,炭素微粒子表面上へのZrON及びTaONの成膜を確認する.さらに,高周波電力,成膜圧力,各スパッタガスの分圧などの成膜パラメータを変化させて,これらのパラメータがZrON及びTaONの触媒能と膜質へ与える影響を精査し,その原因を考察する.その結果を成膜パラメータへフィードバックして成膜するというサイクルを繰り返し,触媒能が最も高くなるような成膜パラメータを見出す.これらの結果を燃料電池自動車向けのMembrane Electrode Assembly (MEA)に適用して実用可能なPt代替触媒が得られるように評価・検討・改善を行う. 炭素微粒子担持されたZr, Ta酸窒化物の原子スケールでの表面界面電子物性の研究は初めての試みであり,同一試料で表面界面物性と電気化学的性質の研究を行うことにより,触媒能に関して新たな知見が得られることも期待できる. (2) 量産化への提案: 本研究で開発される特殊スパッタリング装置ならびにその装置での成膜の最適条件は,あくまでも実験室規模での成膜の条件である.Pt代替触媒の利用を一気に拡大させるためには,Pt代替触媒の量産体制を作らねばならない.例えば,超音波振動子による炭素微粒子の浮遊なども量産体制には向かず,他の方法を考える必要がある.本研究の結果をもとにして,これらの課題を克服した量産に適したスパッタリング装置ならびにプロセスの提言を行う.
|
次年度使用額が生じた理由 |
もともと基金を初年度に多く配分したのは,研究が飛躍的に進んで消耗品等を多量に購入するような場合でも対応できるようにするためである.昨年度の研究の進度はほぼ計画通りだったため,基金の30%近くを繰り越すことになったが,これは十分想定された範囲である. 昨年度の執行額が少なかった原因としては,スパッタリング成膜装置が設計通りの性能を発揮するまでに時間がかかったため,ターゲットやガスラインの構築に必要な経費,ならびに膜質評価に必要な経費が予定より少なかったことが挙げられる.
|
次年度使用額の使用計画 |
スパッタリング成膜装置薄膜作成が順調に稼働し始めたので,27年度末までには所期の研究目標を達成できる見通しである.従って,昨年度支出が少なかったターゲットやガスラインの構築の経費,ならびに膜質評価の経費を含めて,26年度当初に予定した通りの経費が必要になると予想される.
|