研究実績の概要 |
原子間力顕微鏡(Atomic force microscopy: AFM)は探針側面に働く水平方向の力を検出できないため、急峻な勾配を有するナノ構造を壊すことなく高分解能観察することが難しい。この問題を克服するために、カンチレバー型力センサの複数信号モードを同時に計測し、垂直方向・水平方向に生じる相互作用力を検出できる新規AFM計測手法を開発するのが本研究の目的である。昨年度までに有限要素法(Finite Element Method, FEM)によるカンチレバー形状と振動特性の解析やその実測、また光熱励振で水平・垂直方向のカンチレバー振動を励起するために最適なレーザー光スポットの照射位置の把握など基本的な動作原理の検証を行った。さらに新規AFM計測手法の有用性を実証するモデル試料として球状タンパク質のチューブリンが形成する微小管の調製方法を確立した。 本年度(平成28年度)は、水平方向の力ー距離依存性を調べるために、ステップ構造を有する標準試料に向かって探針を走査しながら垂直・水平方向の振動特性を同時計測する実験を行った。その結果、ステップ構造から離れた非接触位置でも水平方向の振動特性に変化が生じた。また水平方向の振動振幅を変化させるとステップ構造を検出するための最適な振幅が存在することを明らかにした。以上の研究成果により、当初の計測コンセプトが急峻勾配を有するナノ構造を非接触で検出できることを強く示唆している。
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