次世代高機能イオン源の開発は、イオンビームをプローブ粒子とする顕微鏡あるいはイオンビームを用いた微細加工装置の高精度化・高機能化に直結し、科学技術分野への波及効果が極めて大きい点において、表面科学の基礎的側面だけでなく工業技術的な応用の観点からも極めて重要である。本研究課題は、イオン源開発の技術的な問題の中で、特にそのイオン発生の微視的過程を明らかにする事を目的として、従来の電界イオン顕微鏡(Field Ion Microscope: FIM)にマイクロプローブホール(μPH)を装備して特殊化し、直径30pmという極めて高い空間分解能で試料表面上の単一原子の大きさよりも十分に狭い領域から放出される電界イオンの数を直接的に計数計測(カウンティング)した。昨年度のイオン検出部の改良により、観察のための全操作範囲を1.0nm×1.0nmに拡大出来ており、その成果を踏まえて本年度はタングステン試料表面上の結晶面(112)のステップ端に位置する原子に着目し、その原子および周辺位置での電界イオン生成率の違いを観測し精査した。その結果、蛍光板を用いて取得される従来のFIM像の輝点の濃淡では到底識別出来なかった重要な知見を見出す事に成功した。即ち、従来は一つの輝点に対応した単一原子内でのイオン化率は輝点の中心から等方的に分布すると考えられていたことに対して、実際には着目する原子に隣接する周辺の原子配置と、その間を縫ってイオン化位置まで供給されるイメージングガス原子の流束を反映して異方性が現れることである。測定されたイオン化率分布を、実際の原子配置に基づく試料表面上の電場分布とイメージングガスの供給量および方向を考慮したイオン化モデルを用いて解析することで、極めて局所的な領域でのガス流の動きを、その量だけでなく方向を含めて定量的に捉えるという大きな成果を得ることが出来た。
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