研究課題/領域番号 |
26600104
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
坂間 弘 上智大学, 理工学部, 教授 (10242017)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 紫外光アシストALD法 |
研究実績の概要 |
本研究は、ビスマスをAサイトに持つ、いわゆるBiぺロフスカイト遷移金属酸化物の人工超格子によって、室温以上で強磁性と強誘電性をあわせ持つ物質(いわゆる強磁性強誘電体)を作製し、それを使って高速低消費電力型のハードディスクやMRAMなどを実用化することを最終的な目標としている。特に本研究においては、今までの実績をもとに、現状よりもさらに人工超格子の自発磁化を格段に増大させ、実用化が十分可能なレベル(300emu/cc)まで引き上げることを目的としている。そのためには、150℃以下での低温成長を実現させなければならない。成長温度がこれより高いと、Fe3+とCr3+が相互拡散によって入れ替わって原子配列が乱れ、交互のFe3+とCr3+からなる磁気秩序が破壊されるために、自発磁化が大きく減少するからである。そのために紫外光を用いる。ただし低温では、金属化合物が酸化剤と反応して解離して、金属酸化物となるための熱エネルギーが不足する。それを紫外光の光エネルギーで補うことで、150℃以下の低温成長を実現する。 2年目は、初年度に既存のALD装置のリアクター部を作り直して紫外光をリアクター内に導入できるように改造し、紫外光を成長中の基板上に照射することが可能となったことを受けて、紫外光の照射により低温でのBiFeO3薄膜の成長が可能になるかどうか実際に確かめた。その結果、紫外光なしでは不可能であった薄膜の低温成長が100℃~200℃で可能となることを示した。また、X線回折で実際に薄膜がBiFeO3であることと、XPSで薄膜中にCが残存していないことを確認した。ただし、使用した紫外線では、100℃未満での成長は認められなかった。紫外光アシストでも100℃未満では原料が分解されないことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度は紫外光をリアクター内に導入できるようにするための装置の改造を行った。また、ALD装置を操作するためのソフトウエアが紫外光源のON/OFFを制御できるように、ソフトを書き換えた。しかし、紫外光源のリモート制御の方式がやや特殊でALD装置の制御用ソフトとの互換性が乏しく、ALD装置のソフトそのものを一部作り直した。しかし、実際の動作チェックでは時々期待通りの動作をしないことがあった。その原因を調査した結果、手作りのソフトにバグがあることを発見し、それを修正することで正常に動作することを確認した。計画では初年度中に実際に、紫外光照射でBiFeO3薄膜の低温成長が可能となることを示す予定であったがそれができなかった。2年目にBi(ph)3、Fe(Cp)2と酸化剤(オゾン)を原料として制膜実験を行い、紫外光アシストによってBiFeO3薄膜が低温で成長することを確認できた。また、XPSで薄膜中にCなどの不純物が残存していないとがわかった。すなわち、紫外光アシストALD法の有効性を明らかにできた。その成果を学会にて発表した。 当初の計画では、さらに2年目に紫外光アシストALD法でBiCrO3薄膜を作製する予定であったが、ソフトウエアのバグの解消に手間取ったために、着手はしたもののBiCrO3の成長には成功していない。
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今後の研究の推進方策 |
いままでの結果を踏まえて、まず紫外光アシストALD法を用いてBiCrO3薄膜の作製を行う。原料としてはBi(ph) 3、Cr(Cp)2と酸化剤(オゾン)を使う。紫外光なしではCr(Cp)2はFe(Cp)2よりも安定であり、以前の研究では300℃以下で酸化クロムの薄膜を作ることはできなかった。紫外光の照射で、Cr(Cp)2の分解が低温で進むかどうかが焦点である。特に、200℃以下で反応が起こることが期待される。まずは、紫外光アシストで酸化クロムの薄膜を作製し、それが可能となる条件を見出す。その知見を参考にして、Bi(ph) 3、Cr(Cp)2と酸化剤(オゾン)でBiCrO3薄膜の紫外光アシストによる低温作製に挑戦する。それに成功すれば、紫外光アシストによるBiFeO3薄膜とBiCrO3薄膜の成長条件を刷り合わせて、BiFeO3/BiCrO3人工超格子を作製する。そして、それが可能となれば、人工超格子の諸物性、たとえば結晶構造は組成、誘電特性、磁気特性などを測定し、PLD法などの他の方法で作った人工超格子との比較を行う。それによって、人工超格子作製における紫外光アシストALD法の有効性を確かめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度で発生した残額は1万円に満たないもので、その金額だけでは物品などの購入ができないために発生したものである。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度予算とともにまとまった金額の予算として有効に活用する。
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