本研究は、ビスマスをAサイトに持つ、いわゆるBiぺロフスカイト遷移金属酸化物の人工超格子によって、室温以上で強磁性と強誘電性をあわせ持つ物質(いわゆる強磁性強誘電体)を作製し、それを使って高速低消費電力型のハードディスクやMRAMなどを実用化することを最終的な目標としている。特に、本研究ではALD法を製膜方法として選び、代表的なBiぺロフスカイト遷移金属酸化物であるBiFeO3の低温層状成長を目指した。低温化には紫外光を用いた。すなわち、単に成長温度を下げただけでは、金属化合物が酸化剤と反応して解離して金属酸化物となるための熱エネルギーが不足する。それを紫外光の光エネルギーで補うことで、200℃以下の低温成長を目指した。 まず、既存のALD装置のリアクター部を作り直して、紫外光をリアクター内に導入できるようにした。具体的には、基板 を置く試料台の真上にあるリアクター部のフタ(カバー)を紫外光の導入が可能なように改造した。さらに、ALD装置を操作するためのソフトウエアが紫外光源のON/OFFを制御できるようにソフトを書き換えた。この装置を使ってBiFeO3薄膜を作製した。原料としてはBi(ph) 3、Fe(Cp)2と酸化剤(オゾン)を使った。その結果、紫外光の照射で150℃という極低温でのBiFeO3薄膜の成長が可能になった。薄膜を作製後、X線回折で実際にBiFeO3薄膜ができており、XPSで薄膜中にCなどの不純物が残存していないことを確認した。150℃という成長温度は、ALD法でBiFeO3薄膜を成長させることに成功した過去の研究の中で最低の温度である。そして誘電特性を測定した結果、この薄膜は室温において強誘電性を示すことが示された。
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