研究課題/領域番号 |
26600105
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研究機関 | 豊田工業大学 |
研究代表者 |
吉村 雅満 豊田工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40220743)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 探針増強ラマン散乱 / プラズモン / ナノチューブ |
研究実績の概要 |
測定対象物近傍に金属ナノ粒子を配置し、表面プラズモン共鳴による電場増強効果を利用すると、従来の光学顕微鏡の回折限界を大幅に超えるnmオーダの空間分解能でのラマン分光測定が可能となる。本研究ではラマン装置と原子間力顕微鏡(AFM)を複合化し、AFM探針先端に金属ナノ粒子を配置した探針増強ラマン(TERS)において、“電場増強”と“高分解能化”の両者の役割を担う、銀ナノ粒子プローブを開発する。このプローブは、独自の方法で合成されカーボンナノチューブ(CNT)に銀を内包した構造をもち、高強度・高分解能で、かつ高い構造安定性から、次世代の回折限界を超えた分光計測・イメージングに向けた重要な要素技術となる。 本年度は、電気メッキによるAFMカンチレバー探針先端への銀粒子塗布と探針先端へのCVDによるカーボンナノチューブ合成を行った。前者では溶液の表面エネルギーを制御し、市販の銀メッキ溶液を用いて、電圧、印加時間を最適化することにより探針先端4ミクロン程度の範囲の部分のみに塗布することに成功した。電圧は3.3V, 印加時間は1msが最適でこの時の銀膜の厚みは約数十ナノメートルであった。 次に、CVD法により、探針先端へのCNTの合成を試みた。AFM探針として用いるので、配向性を制御することが必須であり、バイアスにより垂直配向が可能なマイクロ波支援プラズマCVD法を用いた。メタンと水素の流量を変化させたが、表面には基板のSiがエッチングされた構造のみしか合成できなかった。これは銀の融点が低く容易に粗大化が生じたためと判断した。そこでSi上に直接銀を塗布するのでは無く、アルミナ層を介在させたところ、銀の凝集が制限され、CNTが成長できることを見出した。ラマン分光法で評価したところ、直径1.2nmの単層ナノチューブであることが分かった。今後は銀がどのように取り込まれているかなど観察を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載した電気メッキによるAFMカンチレバー探針先端への銀粒子塗布と探針先端へのCVDによるカーボンナノチューブ合成に関しては予定通り実施できた。但し、カーボンナノチューブ内に銀がどのように内包されているかは、透過電子顕微鏡などによる詳細な観察が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
CNTの合成法として当初ダメージを軽減するためのメッシュを導入したプラズマCVD法を考えていたが、上記のように銀は非常に剥がれやすいことが分かった。交付申請書の研究計画にも示したように、熱CVD法による、よりマイルドな条件での合成法を視野に入れる必要がある。ただ、この場合、どのようにして配向制御するかが大きな課題となる。外部からバイアスを加えるなどの工夫が必要である。 また、銀がCNTに内包されるかどうかは、今後の観察に待たねばならぬが、すでにPdでは内包できることが確認できており、必要に応じて、銀とPdを混合して成長を行うことも必要になろう。 TERSについてはレーザーの位置合わせなど極めて難しい実験となるが、上記と併行しながら実験テクニックの向上もはかって行く。
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次年度使用額が生じた理由 |
触媒塗布の最適化に予想外の時間が掛かったため、CNT合成が年度末までずれ込んでしまい、頻繁に学会発表をすることが困難であった。
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次年度使用額の使用計画 |
CNT合成用のガスや装置改良のための資金として用いること、及び、研究成果を学会や論文誌に積極的に公表していく予定である。
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