測定対象物近傍に金属ナノ粒子を配置し、表面プラズモン共鳴による電場増強効果を利用すると、従来の光学顕微鏡の回折限界を大幅に超えるnmオーダの空間分解能でのラマン分光測定が可能となる。本研究ではラマン装置と原子間力顕微鏡(AFM)を複合化し、AFM探針先端に金属ナノ粒子を配置した探針増強ラマン(TERS)において、“電場増強”と“高分解能化”の両者の役割を担う、銀ナノ粒子プローブを開発する。このプローブは、独自の方法で合成されカーボンナノチューブ(CNT)に銀を内包した構造をもち、高強度・高分解能で、かつ高い構造安定性から、次世代の回折限界を超えた分光計測・イメージングに向けた重要な要素技術となる。 まず、電気メッキによるAFMカンチレバー探針先端への銀粒子塗布条件の最適化を行い、マイクロ波支援プラズマCVD法による探針先端へのCVDによるカーボンナノチューブ合成を試みた。メタンと水素の流量を変化させたが、表面には基板のSiがエッチングされた構造のみしか合成できなかった。そこで熱CVD法を用い、さらに、アルミナ層を介在させたところ、CNTを成長することに成功した。次に、蒸着法により作製した銀/Pdコートカンチレバーに対して成長を試み、探針先端を透過型電子顕微鏡(TEM)により評価した。その結果、650℃以上でCNTが成長することが分かった。X線分析(EDX)により先端粒子の組成を調べたところ、PdとAgの両方の元素が検出された。 一方、TERS測定に関しては、酸化膜上に銀を蒸着したカンチレバーを用いて、マラカイトグリーンやグラフェンを試料とし、レーザー照射条件の改良などを含め測定の最適化をはかった。後者においては、ステップを用いてラマン信号の空間分解能を評価したところ、通常のラマンの約5倍、また増強効果は200倍となった。
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