研究実績の概要 |
本研究の目的は、1)時間遅延補償分光器により選択された単一次数高次高調波パルスの時間幅の限界を探ること、2)時間遅延補償分光器を光源とした時間分解光電子分光の応用例を増やし、新たに得られる知見を蓄積することである。 1)に対しては、高調波を発生するレーザーパルスの時間幅を短縮することにより、高調波のパルス幅を短縮化することをめざした。実際には、レーザー光を中空ファイバー中を伝播しスペクトルを広帯域化しパルス短縮し、30 fsから10 fsに圧縮した。実行するためには2つ技術的問題があった。一つは、実験室環境の経時変化により、レーザー光と中空ファイバーへの結合が変わり長時間稼働することができない。もう一つは、中空ファイバー伝播によるエネルギー損失である。1つめの課題については、ビーム安定装置を導入することにより5時間安定に稼働することができた。2つめは、入力パルスエネルギーが1mJでパルス圧縮後で300μJであった。高次高調波を発生するには十分であったが、パルス幅測定にはエネルギーが不足している。そのため、残念ながら本研究では計測まで至らなかった。一方、光学系における位相の最適化をおこなったところ、可視励起光と高調波の交差相関幅が120 fsだったのが55 fsまで圧縮することができた。時間分解能を向上することができた。 2)については、研究期間中に1,2-ブタジエンの超高速緩和過程の観測と光解離を観測した。光電子量の振動を観測した。励起状態の寿命は37 ± 15 fsで高速に基底状態へ緩和する。励起状態と基底状態の構造の安定点の違いから誘起される振動と考えている。このような現象は、紫外光を用いた光電子分光や時間分解質量分析法では観測できなかった現象である。今後、さらに多くの系に適用することにより新現象の発見が期待される。
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