研究課題/領域番号 |
26600119
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
江馬 一弘 上智大学, 理工学部, 教授 (40194021)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 無機有機ハイブリッド物質 / 励起子 / 量子井戸 / 太陽電池 |
研究実績の概要 |
近年注目を集めている無機有機ハイブリッドペロブスカイト物質(HP物質と略す)の2次元構造(量子井戸)を太陽電池応用に適する材料に引き上げるための研究を行っている. 2014年度までは,2次元構造の励起子物性の確認のための実験,および,3次元構造における励起子物性の研究を行った.3次元物質では励起子が存在しないと言われているが,精密な光学測定により,少なくとも臭素系においては励起子が安定に存在することを示唆する実験結果が得られていた. 2015年度はそれを確認するために,低温における励起子散乱の測定に取り組み,散乱現象の確認に成功した.励起子散乱による発光(P発光と呼ばれている)が確認され,これにより,励起子束縛エネルギーが20~40meVであることが判明した.また,ヨウ素系に関しては,明瞭な励起子散乱が確認されず,束縛エネルギーは10 meV程度と小さいものと予想される. 2次元物質については,試料作製方法の改良を行った.この材料系は太陽電池材料として注目を集めるようになったため,これまで自ら合成していた原料の一部が,市販品として購入できるようになった.さらに,市販の原料は品質も高く,作製過程も大幅に簡略化することができたため,試料作製法は大幅に改善された.新たに得られた試料は,以前のものよりも,光学スペクトルに励起子構造が明瞭に現れるようになった.この試料を用いて,以前行った励起子の基礎光学特性の追試を行った.励起子分子の確認,励起子微細構造の確認など,順調に進んでおり,すべての追試の完了後に,励起子と自由キャリアの緩和ダイナミクスの測定に取りかかる.その後,太陽電池構造への発展に進む予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
3次元物質については,室温でも励起子効果が顕著に表れることを確認し,さらに励起子束縛エネルギーを見積もるなど,着実に成果があがっている.しかし,研究の主目的である2次元物質については,新しい試料作製方法がほぼ確立した段階であり,2次元から3次元にかけてのハイブリッド物質の光学測定の実施と太陽電池応用への応用研究は2016年度に延長ということになった.
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今後の研究の推進方策 |
沃素系,臭素系において,3次元物質での励起子の重要性は確認できたので,今後は,キャリアの緩和ダイナミクスを詳細に研究する.また,太陽電池効率の温度依存性なども測定する予定である. 2次元構造については,2次元から3次元にかけてのクロスオーバー領域での光学特性を重点的に行う予定である.これらが順調に進めば,太陽電池応用への実験に取りかかる.2次元構造では,励起子束縛エネルギーが大きいので,このままでは電荷分離が生じない可能性が高い.そこで,1層,2層程度の試料については,無機層から有機層へのエネルギー移動もしくは電子移動を起こし,有機層において電荷分離することを目指す.光吸収は巨大な振動子強度を持つ無機層の励起子が担い,そこから効率良く有機層へエネルギー移動されることで,有機層に励起状態を移動させる.具体的には,有機層にナフタレン,アントラセン,共役系高分子などを導入する.アントラセンとナフタレンは臭素系の励起子と共鳴エネルギーが一致しており,共役系高分子は共役長を制御することにより,エネルギー位置を調整することができる.すでに単層の臭素系ではエネルギー移動効率を測定しており,それと同じ方法で,エネルギー移動効率を測定することができる.さらに,導入する分子と無機層との距離,および遷移双極子モーメントの方向をパラメータとして,これらを系統的に変化させた有機層を作製し,移動効率の最も高いものを見つけ出す.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度後半に2次元物質の試料作製方法が改良され,研究が大きく進展しつつある.多くの成果が今後生み出されるところであるが,過去のデータとの整合性を確認するための追実験や再現実験に時間を要しているため,28年度にまで研究期間を延長する必要が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
27年度中に完了したかった実験をすべて終えるための,消耗品支出と,学会(国内・海外)発表,論文発表のために繰り越した予算を使用する計画である.
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