本研究の目的は、申請者らが独自に開発し現在では様々な工業分野で粘性計測に用いられているEMS(電磁回転式)粘度測定システムを高精度化し、標準物質を必要としない粘性の絶対値の計測手法を構築すること、さらにその精度を向上させて世界の粘度計測の標準とするための要素技術を開発することにある。 本年度は磁気浮上型回転子プローブを作製し、粘度標準として気体の粘性測定を試みた。回転子として導電性を有しかつ反磁性を示すグラファイトの円板を用いることにより、円形磁石の組み合わせによってこれを空中に磁気浮上させることができる。このグラファイト円板に、さらに回転磁場を与えると電磁駆動の原理により空中で回転を駆動することができる。この方式は機械摩擦が完全に排除され周囲の媒質の粘性のみを検出することが可能な究極の微小粘性測定システムとなる。実験では空気、アルゴン、窒素、水素などの純気体について粘性測定を行い、それらが文献値と非常に良い精度で一致することを確認した。さらに印加トルクと回転数の関係を詳細に調べて結果、磁場の回転方向の微小な具均一性が回転子の制動に寄与することが明らかとなった。この効果を計算によって定量的に評価し、気体の粘性測定においてその精度を向上させることに成功した。また気体の導入および排出口を有することにより容易に内部の気体を置換することができるセルを作製し、迅速な気体粘性の測定を可能にするシステムを構築した。 これに加えて昨年度までに作製した液体試料用の自立型回転子に改良を加え、純水の測定において1%以上という高い粘性測定精度を実現した。
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