研究課題
高分子ソフトマテリアル研究や、有機デバイス開発等の多くの分野で、軽元素から構成される試料等の内部を高感度で可視化する技術の重要性は近年ますます高まっている。本研究は、X線回折格子干渉計をさらに発展させ、超高感度のX線位相イメージングおよび小角X線散乱イメージング技術の開発を目指すものである。超高感度化は、光学系の超小型化や、シグナルのロックイン検出など、従来はなかった着想によって実現する。さらにその派生型として、X線位相エラストグラフィ、GISAXS(Grazing-Incidence Small-Angle X-ray Scattering)イメージング・トモグラフィ、反復的位相回復法との組み合わせによる超解像実空間イメージングなど、独創的な方法の開発を目指す。平成26年度は、、光学系の全長が数10 mm 以下の超小型回折格子干渉計のを実現するための回折格子の開発に重点を置いた。回折格子の作製については、東北大学金属材料研究所の加藤秀実教授の協力のもと、金属ガラスを用いた回折格子の開発を目指した。また、ナノ粒子充填方式については、東北大学原子分子材料科学高等研究機構の北條大介助教とともに試行錯誤を繰り返した。さらに、大型放射光施設(SPring-8)において、GISAXSイメージングの原理実証実験を行い、X線位相イメージングでは一般的にコントラスト形成が困難な試料表面の10 nmの段差に起因するコントラストを明瞭に得ることに成功した。また、通常のGISAXSイメージングでは、マイクロビームに対して試料をスキャンすることによって実空間マッピングを行うが、本手法では、シート状のビームで、試料のスキャンなしに実空間分布の定量的イメージングが行えることが、実験的に示された。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題の成否を左右する新規微細加工プロセスによる回折格子の作製が予想を超えて順調に進んでいる。特に金属ガラス回折格子については、すでに高アスペクト比の回折格子の作製が実現できており、残り二年の研究期間で大きなブレイクスルーを生む可能性が大きくなっている。GISAXSイメージングについても、予想を超えて順調に進んでいる。すでに深さ10 nmの400 nmライン&スペースを表面に形成したSiO2/Si試料に対して、9 keVの放射光を用いてテスト実験を行っているが、空間分解能約10 μm、視野数mmでの実空間イメージングに成功しており、また実験前の予想がおおむね再現されている。この技術は、従来のX線反射率法の配置に回折格子(空間コヒーレンス度の高い放射光が利用できる場合は1枚の位相型回折格子、実験室光源では3枚の回折格子)を加えるだけで、X線反射率の実空間分布だけでなく、表面に平行な方向の構造情報の実空間分布を画像として可視化できる方法であり、大きなインパクトを生むと考えている。一方で、試料に変調を加える高感度イメージング法の開発は、現在進行中であるが、まだ目立った成果につながっていない。また、平成26年7月以降の研究所内の建物耐震改修工事のため、実験室X線源を利用した実験については、十分に行うことができなかった。これらの進捗状況を総合的に評価して、おおむね順調に進展しているとした。
平成27年度は、サブμm周期の高アスペクト比(高性能)回折格子を、東北大金属材料研究所の加藤教授、東北大原子分子材料高等研究機構の北條大介助教と共同で、金属ガラス、ナノ粒子を用いて作製することを目指す。実験室光源および放射光を用いて、超小型高感度回折格子干渉計の実現を目指す。回折格子や加振装置などのさらなる改良も進める。X線の波長、回折格子の周期、運動の振幅や周波数、光学系のパラメータなどを変化させ、最適な撮像条件を探る。GISAXSイメージングについては、平成26年度に定量イメージングの原理検証はほぼ完了したため、解析プログラムなどの整備を行うとともに、トモグラフィなどの新規計測・解析法の開拓を目指す。なお、平成26年度の成果については、すみやかに高インパクトファクター誌に投稿する。トモグラフィについては、ナノドットを微細加工技術によって表面に形成した試料を用いて、定量的な二次元・三次元イメージングが実現可能であるか、実験的に検証する。さらに平成26年度は9 keVの放射光を用いたが、さらに低いエネルギーのX線を用いて、100 nm以下のサイズに敏感な(USAXSに近い領域よりもSAXS領域で)GISAXSイメージングを実現することを目指す。例えば3 keV前後のエネルギーのX線は最近SAXS分野で注目されているが、真空中で実験をしなければならないなど制約が大きいため、克服すべき技術的課題がある。試料に変調を加えることによって高感度化を目指すX線位相エラストグラフィ法の開発も鋭意進めていく。
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