研究課題/領域番号 |
26600139
|
研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
加田 渉 群馬大学, 大学院理工学府, 助教 (60589117)
|
研究分担者 |
酒井 真理 群馬大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (70727338)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | ダイヤモンド / 荷電粒子検出 / 細胞培養ディッシュ / イオンビーム微細加工 / 反応性イオンエッチング |
研究実績の概要 |
ダイヤモンドを利用したセンサ内包型機能性細胞培養ディシュの基本構造を開発した。まず、イオンマイクロビームによる微細加工技術を応用して、ダイヤモンド内部に電気特性の異なる微細構造を誘発した。微細加工装置として、(独)日本原子力研究開発機構 高崎量子応用研究所に設置されたシングルエンド加速器マイクロビーム微細加工装置を利用した。他方で、細胞固定溝のような溝型構造の形成には、集束ビームによる高精度微細加工ではプロセス時間が長大化するため、酸素プラズマを利用した反応性イオンエッチング処理を併用した。群馬大学においてプラズマエッチング加工装置を整備しながら、一部外部機関の装置を併用することで、ダイヤモンド薄膜(3mm ×3mm, 厚み 30-300μm)の内部に溝型構造(2mm × 2mm, 厚み 約 25μm)を形成することに成功した。さらに、ダイヤモンドに対する生体親和性を評価するため、その試料表面での細胞培養を試みた。UVで20分間照射し滅菌したダイヤモンド試料を6wellプレート底面に設置した。その容器内に2mLの細胞懸濁液を加え、3日間培養した。実験は群馬大学重粒子線医学研究センターにおいて所定の手続きを経て実施された。ヒト唾液腺由来腫瘍細胞(Human salivary gland adenocarcinoma, HSG)を使用し、細胞の量が実験開始時にコンフルエントとなる量の10%となるよう懸濁液の濃度を調整した。その後、ダイヤモンド素子を取り出し、別のプレートでさらに3日間の培養を行った。実験中は1日ごとに顕微鏡下で細胞の増殖を確認した。その結果、ダイヤモンド素子表面に細胞が接着し増殖している様子を観察することができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画ではPBW微細加工技術によりダイヤモンド内部への炭化構造の形成を目標としていた。研究期間開始時に3次元微細加工が確認されたため、連携研究機関に設置された反応性イオンエッチング処理装置を利用し、溝形構造をダイヤモンド中に形成するプロセスに着手した。Ar/O2混合ガスを導入することでダイヤモンド溝型構造が高精度に形成できることが確認された。このダイヤモンドディシュを利用し、細胞培養を研究分担者の所属研究センターにおいて試行した。一部のダイヤモンド材料表面において、細胞増殖が確認できた。得られた成果について、医理工連携に関する国際シンポジウム(GUMI-AMDE)や応用物理学会において発表した。発表に対する反響は予想よりも大きく、ダイヤモンドを専門とする研究者から、専門研究会へ招待を受けるなど、ポジティブな反響を受けることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度は、計画通り主要な要素技術の開発までを達成することができた。次年度は、本技術を工学的に利用価値のあるものとするため、細胞培養に必要な処理手法の確立までを進める予定である。イオンマイクロビーム及び反応性スパッタリングで形成した構造を、既存設備である膜厚段差計及びレーザー顕微鏡により評価する。さらに部分的に形成した電極構造の電気特性を、微小電流計及び精密電荷信号増倍回路を製作して計測し、その基礎特性を評価する。 また、ダイヤモンド細胞培養ディシュ表面での細胞増殖は確認されたが、細胞形状は通常の培養容器で培養されたものに比べて球形であり、増殖速度も遅かった。一般的に、培養面への細胞の接着能が低くなると細胞が広がりにくく増殖も遅くなることから、ダイヤモンド細胞培養ディシュと細胞の接着能が十分ではないことが要因と考えている。今後はダイヤモンド細胞培養ディシュの表面分子構造を変化させるなどの表面処理を行い、通常の培養容器と遜色のない培養環境となるよう改良を行う予定である。特に、細胞培養環境を確立するためには、これらの表面処理についても探究することが重要と考えられる。現在、大気圧プラズマ処理を専門分野とする研究者と議論を進めている。今後、各分野の研究者と議論を重ねながら処理結果を検証してゆくことで、実際の細胞培養に寄与できる装置となるか、デバイスの有効性を検証する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
ダイヤモンド基板の表面処理に利用する反応性イオンエッチング装置に関しては、当初予定していた費用以下での導入が可能であった。この差額を利用し、大気圧プラズマ照射装置を導入することで、微細加工後のダイヤモンド表面の生体親和性を変化させる処理を新たに可能とする計画であった。しかしながら、発注後、年度末になって業者都合により該当機器が所定納期を超過すると連絡があり、年度内での予算執行が叶わなかった。
|
次年度使用額の使用計画 |
同予算を利用し、該当機器を次年度に導入し、実験に利用する予定である。
|