本研究の目的は医用画像に基づく胃の食物流動の計算力学モデルを用いて,消化管運動と食物流動の力学的関係を明らかにし,機能性ディスペプシアのメカニズムを解明することである.特に,食物の流動異常・胃壁の応力異常を引き起こす消化管運動のパラメータ空間を特定する. 胃の食物流動は高粘性の流れであり,平成26年度までに開発した粒子法に基づく計算力学モデルでは数値振動によって微小な撹拌の評価が困難であった.新たに,有限体積法,Volume-of-Fluid(VOF)法,Immersed boundary 法に基づく計算力学モデルを開発し,これをGraphics processing unit(GPU)計算に実装することで,高精度かつ高速な食物流動計算を可能にした. 流動異常を生じる消化管運動のパラメータ空間を特定するため,蠕動運動の速度,発生頻度,食物の粘度などに対する大規模パラメトリック計算を実施し,レイノルズ数に応じた撹拌能力の変化を明らかにした.蠕動運動の発生頻度が高いほど一定時間に生じる撹拌は大きくなるが,複数の蠕動運動によって生じる流れ場が干渉するため,一つの蠕動運動あたりの撹拌は小さくなることが明らかとなった.
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