研究課題/領域番号 |
26600154
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
三上 益弘 慶應義塾大学, 理工学研究科, 教授 (50358074)
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研究分担者 |
秋元 琢磨 慶應義塾大学, 理工学研究科, 講師 (30454044)
泰岡 顕治 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (40306874)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | リガンド / 受容体 / 分子間相互作用 / 統計熱力学 / SAFT / 分子動力学法 / 粗視化モデル |
研究実績の概要 |
本提案では、分子シミュレーションに比べて、桁違いのサイズを扱える古典密度汎関数に基づいた溶媒中でのリガンド-受容体相互作用の高精度な統計熱力学モデルを開発し、その本質の解明を目指している。初年度は、(1) 脂質分子・蛋白質分子・糖鎖分子の粗視化モデルの評価, (2) 脂質分子・蛋白質・糖鎖分子のSAFT(Statistical Associating Fluid Theory)モデルの検討を行った。また、本研究は、研究内容が多岐にわたるため、計算科学と統計物理学の研究者からなるチームで実施した。 (1)脂質分子・蛋白質分子・糖鎖分子の粗視化モデルの評価: 脂質分子・蛋白質分子・糖鎖分子のSAFT自由エネルギーモデルを開発するには、リファレンスにする粗視化モデルが必要である。そのため、これまで提案されている脂質分子・蛋白質・糖鎖分子の代表的な粗視化モデルであるMARTINIの評価を行った。これまでに、脂質分子と脂質分子/糖鎖分子系について、膜面積、膜密度分布、拡散係数を計算し、実験及び先行研究の全原子モデルの結果と比較し、良好な結果を得た。 (2)脂質分子・蛋白質分子・糖鎖分子のSAFTモデルの開発: SAFTモデルは、古典密度汎関数に基づいて、Chapmanらにより開発された統計熱力学モデルである。今年度は、SAFTモデルの静電相互作用と分散力相互作用による自由エネルギー項のパラメータを、(1)で評価した脂質分子・蛋白質分子・糖鎖分子の粗視化モデルを用いた分子シミュレーションの結果から決定する方法について検討し、その方法を構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度計画していた下記の二つの研究項目について研究を実施し、計画通りに達成した。 (1)脂質分子・蛋白質分子・糖鎖分子の粗視化モデルの評価 脂質分子・蛋白質分子・糖鎖分子のSAFT自由エネルギーモデルを開発するには、リファレンスにする粗視化モデルが必要である。そのため、計画では、先行研究で開発されている蛋白質・糖鎖分子の代表的な粗視化モデル(MARTINI)の評価を行い、実験データをより再現するようパラメータを得ることを目標とした。これに対し、本年度は、MARTINI力場を用いた脂質分子膜(DPPC)と脂質分子/糖鎖分子系(DPPC/GM3)の分子動力学シミュレーションを広範囲な温度・成分比・サイズで行い、実験値及び全原子モデルの結果を良く再現することを確認した。また、現在、蛋白質分子/脂質分子/糖鎖分子系のモデリングを進めており、蛋白質分子についても、次年度以降実施する予定である。 (2)脂質分子・蛋白質・糖鎖分子のSAFTモデルの開発 熱統計力学モデルのパラメータと分子動力学シミュレーションの力場は、整合性があることが必要である。そのため、計画では、(1)で開発した脂質分子・蛋白質分子・糖鎖分子の粗視化モデルを用いた分子シミュレーションからSAFTモデルのパラメータを決定する方法の開発を目標とした。これに対して、本年度は、分子間相互作用として重要な静電相互作用と分散力相互作用によるSAFT自由エネルギー項のパラメータを、(1)で評価した脂質分子・蛋白質分子・糖鎖分子の粗視化モデルを用いた分子シミュレーションの結果から決定する方法を構築した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降は、(3)脂質分子・蛋白質分子・糖鎖分子・溶媒系のハイブリッド法の開発, (4)Body(細胞の一部やウイルス全体を固体と近似し、分散力や静電相互作用のソースとなる)-Body、Body-粗視化粒子の相互作用計算法の開発を行い、大規模系のリガンド-受容体相互作用の高精度統計熱力学モデルの方法論を確立する。さらに、適用研究として、(5)インフルエンザウイルスと糖鎖分子を含む細胞の相互作用の解明, (6)細胞接合分子を含む細胞間相互作用の解明を行い、熱測定の実験結果などと比較しながら、本方法の改良をはかり、研究を完了させる。 (3)脂質分子・蛋白質分子・糖鎖分子・溶媒系のハイブリッド法の開発 リガンド-受容体相互作用の代表的な例であるインフルエンザと粘膜細胞の認識や細胞-細胞間接着は、溶媒中での現象であり、大規模な系を必要とする。この大規模系の計算を実用的な計算時間でかつ信頼できる結果を与える方法として、分子動力学法とSAFT法のハイブリッド法を開発する。脂質分子・蛋白質分子・糖鎖分子の分子内相互作用は、(1)で開発した粗視化モデルを用いて計算し、溶媒を含む脂質分子・蛋白質分子・糖鎖分子の分子間相互作用は、SAFTモデルに基づいて計算する。この方法により、大規模系の高速計算が可能になる。 (4) Body-Body、Body-粗視化粒子の相互作用計算法の開発 粘膜細胞の一部やインフルエンザウイルス全体を計算モデルに組込むために、細胞の一部やウイルス全体などを固体でると近似し、分散力や静電相互作用のソースとなるBodyを用いて、Body-Body、Body-粗視化粒子の相互作用計算法を開発して、粒子モデルでは大規模過ぎて扱うことができないインフルエンザウイルスと細胞表面や細胞接合分子を含む細胞間接着のリガンド-受容体相互作用の計算を可能にする。
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次年度使用額が生じた理由 |
シミュレーションデータの保存用に4TBの内臓HDDを購入したが、予定購入価格より 安価であったために、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度もデータ保存用にHDDの購入を予定しているが、その購入費の一部に当てる。
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