本年度は、アンブラル・ムーンシャインの専門家である John F.R. Duncan 氏が来訪したので、この機会を利用して,研究協力者の山内博氏とともに,ムーンシャインの一般化に関する議論を行った。その結果,アンブラル・ムーンシャインの枠組みと共形場理論におけるいわゆるADE分類に類似した点があることが判明したので、これについて共同研究を行う方向となり,引き続き議論を行った。また,コンウェイ・ムーンシャイン加群を含む正則な超頂点作用素代数の分類について,階数の低い場合のユニモジュラー奇格子の分類の観点から考察を行った。 また,大学院生と共同で,本研究当初からの懸案であったカイラル・ド・ラーム複体と楕円種数に関する文献を調査し,その一部について具体的な計算を行った。楕円種数を調べるのにカイラル・ド・ラーム複体が利用できるが,その背後にあるシグマ模型を扱うには不十分と考えられる。本年度の研究によって,このような点について知見が得られたように思われるが,より正確に理解するには,さらなる研究が必要である。 さらに,本研究に役立つと考えられる補助的な研究として,対称性の大きな頂点作用素代数に関する共同研究を行ったが,そこに現れる Deligne 例外系列と呼ばれる単純リー環の系列については,次元などの量を双対コクセター数の有理式によって表す公式が知られており,その一般化として,単純リー環の次元などを三つのパラメータで統一的に記述する普遍公式が知られている。本年度後半には,W代数に関する最近の研究において,単純リー環の極小巾零軌道が重要な役割を果たしてことに着目して,英国ラフバラ大学の Alexander A. Veselov 氏と共同研究を実施し,単純リー環の極小巾零軌道のヒルベルト級数を記述する公式を導いた。その系として,いわゆる随伴多様体の次数を与える興味深い公式が得られた。
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