研究課題/領域番号 |
26610012
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
永野 幸一 筑波大学, 数理物質系, 講師 (30333777)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 幾何学 / リーマン幾何(含幾何解析) / CAT(k)空間 / アレキサンドルフ空間 / ホモロジー多様体 |
研究実績の概要 |
平成27年度は,平成26年度に引き続き,CAT(k)ホモロジー多様体に対するリーマン幾何学的な手法を整備するとともに,CAT(k)ホモロジー多様体に対する安定性について研究を行った.Grove-Petersen-Wu(Invent Math., 1990)のLGC空間(局所幾何学的可縮空間)の研究より,CAT(k)ホモロジー多様体の列が,ある空間に点付きグロモフ・ハウスドルフ位相で収束すると,その極限空間はホモロジー多様体である.今年度は,CAT(k)ホモロジー多様体に対する次の安定性定理を証明した. 定理.局所コンパクト測地的完備な点付きCAT(k)空間の列(X_i,x_i)が,点付きn次元ホモロジー多様体(X,x)に点付きグロモフ・ハウスドルフ位相で収束すれば,十分大のiに対して,X_iはn 次元ホモロジー多様体である. 定理の証明のアイデアは次の通りである.極限ホモロジー多様体XはCAT(k)であり,点xを中心とする十分小さい半径を持つ距離球面S_r(x)は,Lytchak-研究代表者の先行研究により,(n-1)次元球面と同じホモロジー群を持つ.定理1の証明の中で最も緻密な議論が要求される箇所は,十分大のiに対して,Xの距離球面S_r(x)とX_iの距離球面S_r(x_i)の局所可縮性が同程度であることを証明するところにある.この性質が鍵となり,LGC空間に対するPetersen(J. Differential Geom., 1990)のホモトピー安定性定理を経由することによって,S_r(x)とS_r(x_i)がホモトピー同値であることが分かり,X_iがホモロジー多様体であることがしたがう.本研究成果は,Lytchak-研究代表者の一連の共同研究に基づくものであり,一連の共著論文の1つとして発表する予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当該研究課題の当初の研究実施計画において,平成27年度は,「研究実績の概要」欄で述べたCAT(k)ホモロジー多様体の安定性に関する問題と,次のCAT(k)空間の無限小位相正則性の問題の解決に取り組む予定であった. 予想.局所コンパクトで測地的完備なCAT(k)空間の点がn次元多様体点であることと,その点での方向空間が(n-1)次元球面とホモトピー同値な(n-1)次元ホモロジー多様体であることは,同値であろう. しかしながら,このCAT(k)空間の無限小位相正則性の問題の解決には至らず,先送りする形となった.また,本研究は挑戦的萌芽研究ではあるが,研究成果を含む研究論文の執筆が遅れている. その一方で、「研究実績の概要」欄で述べたCAT(k)ホモロジー多様体の安定性に関する定理は,証明のために緻密な議論を要する挑戦的な成果であり,CAT(k)ホモロジー多様体の幾何学的トポロジーの萌芽となり得る汎用性の高い研究である.研究成果の発表には,多少の時間を要することも止むを得ないと考える.以上の理由によって,当初の計画と比較して「やや遅れている」と評価する.
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は,最終年度として本研究を総括する.まず,「研究実績の概要」欄で述べたCAT(k)ホモロジー多様体の安定性に関する定理を含む研究論文を執筆する.さらに,「現在までの進捗状況」欄で述べたCAT(k)空間の無限小位相正則性の問題の解決に向けて,継続的に取り組む.その上で,当初の研究実施計画の通り,次の距離球面の距離球面に関する予想について研究する. 予想A.n次元CAT(k)ホモロジー多様体の任意の距離球面上の任意の点において,距離球面の十分小さい半径を持つ距離球面は(n-2)次元ホモロジー多様体であろう. さらに,次の4次元CAT(0)位相多様体の端に関する問題に取り組む. 予想B.4次元CAT(0)位相多様体において,任意の距離球面は3次元多様体であろう. 以下では,予想Aと予想Bに対する解決のアイデアを述べる.予想Aは,ホモロジー多様体内の距離球面の距離球面に関する主張であり,2つの1点からの距離関数の組からなる写像のファイバーである.このような写像のファイバーは,局所的には,位相的に良い性質を持つことが分かりつつある.もし予想Aが肯定的に解決できれば,予想Bの問題に予想Aを適用すると,距離球面の十分小さい半径を持つ距離球面は2次元ホモロジー多様体であり,特に2次元位相多様体である.したがって,距離球面の近傍は2 次元位相多様体によってスライス化されていると言って良いであろう.このスライス化に対して,Daverman-Prestonのスライス分解定理(Proc. Amer. Math. Soc., 1980)を用いれば,予想Eを証明することができるであろう. なお,研究が当初の計画通り進まない場合には,CAT(k)ホモロジー多様体上の幾何解析の研究や,グロモフ双曲距離空間の微分幾何学的研究などを行い,萌芽的な研究成果を挙げることに努める.
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次年度使用額が生じた理由 |
当該研究課題に関わる情報収集や研究打ち合わせなどのため海外出張を計画していたが,次年度に直接経費を繰り越して海外出張を計画して実行する方が,当該研究を円滑に遂行する上で,より柔軟に,より効果的に活用できると判断した.
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次年度使用額の使用計画 |
当該研究課題に関わる情報収集や研究打ち合わせなどのため,海外出張を計画して実行できるように努める.また,海外出張を企画する際には,今回の直接経費の繰り越し分を合わせることによって,当該研究を円滑に遂行する上で,より有意義な,より効果的な出張となるように計画を行う.
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